笹川　なのでリトルの場合、通常の距離と比べるとおそらく体感速度でいったらプラス30キロ近かったと思うんです。私はその頃、身長が165センチくらいあって、それまで自分より大きな同級生に出会ったことがなかった。でも大谷はそのとき170ぐらいはあったと思うんです。頭一つ、抜けていました。彼だけ異質な感じでしたね。遠目に見ても、あれが大谷なんだな、ぐらいの。高校野球とかだと球の速いピッチャーと対戦するとき、練習でピッチャーが3、4メートル前から投げたりするじゃないですか。あんな感じでしたよ。大人が短い距離から投げているようなイメージです。しかも今でいうスイーパーみたいなのを投げていた。僕は左バッターだったのですが、インコースに入ってきた変化球を空振りしたら、そのまま足にぶつかりましたから。

――でも、そんな大谷のボールを芯でとらえたわけですか。

笹川　ある程度、芯だったと思います。その頃、子どもの硬式野球の世界はカーボン製バットが主流でした。僕はウィルソン製のカーボンバットを使っていたのですが、次の打席に入るときに芯のあたりをさわっていたら、ちょっとひらべったく変形していたんです。まん丸ではなく、楕円でした。それくらい大谷のボールに勢いがあったということだと思います。まだ新品で、4試合か5試合ぐらいしか使っていないバットだったんですけど。

笹川裕二郎さん。大谷翔平と同じ1994年度生まれ世代。大谷翔平の「人生一番の試合」でただ1人タイムリーヒットを放った

「水沢リトルにすごいやるがいる」

――対戦する前から大谷の名前は知っていたのですか。

笹川　6年生ぐらいから、水沢リトルにすごいやつがいるという話は出ていたので。福島でも、東北全体でも、ある程度、上のレベルでやっていたチームは知っていたんじゃないですかね。

――いきなり9者連続三振って、すごいですもんね。

中学1年の時点で170cmほどあったという大谷翔平（一番手前）。「周囲から頭一つ抜けていた」という　©Sankei Shimbun

笹川　でもベンチは、何やってんだみたいな空気にはならなかったですよ。あ、やばいね、ぐらいのライトな感じというか。ある程度、大谷のことはみんな知っていたので、どうしようもないな、みたいな。大谷はガッツポーズとかはしないんですけど、ノリノリな感じがしました。躍動感があって、気合いが入っている感じというか。この試合のあと練習試合をして、そのときも私は大谷からツーベースを打っているんです。ただ、そのときは遅く見えましたね。練習試合だとアドレナリンが出ないんだと思います。

「野球人生でベストピッチだった」

――笹川さんはその試合（東北大会の準決勝）で、5回からマウンドにも上がっていますが、打者・大谷とも対戦しているわけですよね。

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