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「胴上げで泣くのは日本人だけ」負けたのに、なぜブラン監督は3度も宙を舞ったのか? 提案者が語る“ボスへの感謝”と“奇跡の集合写真”
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySankei Shimbun
posted2024/09/27 11:06
話題となったブラン監督の胴上げは、伊藤コーチの提案によるものだった
誰が触って、どんなふうにボールが落ちたのか。伊藤は改めて映像を見返すまで、最後の光景は「記憶になかった」と振り返る。
「関田のトスは完璧だったし、イタリアをハイボールで攻めさせて拾うという狙い通りの展開もできていた。ここからどうしたらいいのか、現状以上何ができるのか。明確にこれがダメだった、あのパーツを埋めるためにはここが必要だ、というものが見つかっていないんです。それぐらいあのチームは“心・技・体・知”全部が揃っていたし、やりきった感もありました」
伊藤は重い腰を上げ、涙する選手たちをベンチで迎えた。そして、2017年から何度も何度も話し合い、彼の持つ哲学や経験から学び、共にチームをつくりあげてきた指揮官に「ありがとう」と伝えた。
まるでクイズのようなブランの“クセ字”を解読してミーティングの資料にまとめることも、準決勝に備えてまた何時間もかかったであろうミーティングも、開かれることはない。
ここで終わることなど微塵も考えていなかったが、もう、このチームで戦う「次」はない。
区切りをつけるなら、ここしかないのではないか。伊藤が選手たちに提案した。
「胴上げしよう。悔しいけど、これが最後だから」
「胴上げされて泣くのは日本人だけ」
コーチとして、選手に余計なお願いをすることはあまり好まない。でも、この時ばかりは自分のルールを破った。パリ五輪でチームを去る指揮官に、できる限りの感謝を伝えたい。「日本の伝統だから」と監督を促して囲んだ。3度、宙に舞ったブランは泣いていた。
「胴上げは、周りに持ち上げられ、投げられ、受け止められる。身動きが取れないし、自分ではどうしようもないんです。普段は自分の足で踏ん張って、踏ん張って、よりよいチームをつくる、勝つために、時に選手や僕らともバトルするわけじゃないですか。自分が言いたいこと、求めることが本当に伝わっているか。信頼されているかなんてわからない。でも、胴上げの時は一緒に戦ってきた仲間が自分を支えてくれる。胴上げされている時って、自分にはこの仲間、ファミリーがいるんだ、という絶対的な安心感や思いが込み上げて、どうしようもなく涙が出て、感情が揺さぶられるんですよ」
だから、と伊藤が笑う。
「海外で胴上げなんてないし、胴上げされて泣くのは日本人だけ。だから、もうブランも日本人です」