甲子園の風BACK NUMBER
「う、うそでしょ?」公式戦0勝なのに“野球部員が急増している”ナゾ…宮城の農業高校はこうして成功した「部員2→26人」「初心者がホームラン」
posted2024/09/11 11:01
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph by
Yuki Kashimoto
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甲子園大会に熱狂しながら、ふと考えさせられることがある。「全国には部員不足の野球部が増え続けている。これからの高校野球はどうなっていくのか」と。その答えを探しに、筆者は宮城県の加美郡に目を向けた。
仙台から車で約1時間、宮城県立加美(かみ)農業高校だ。宮城県の中でも特に少子高齢化が進む地域で、加美郡の人口密度は仙台市の30分の1にあたる47人╱㎢しかない。創立120年超えの加美農は、近年は全校生徒数とともに野球部員も減少。2017年にはわずか2人に。しかし7年前、この学校に赴任してきた佐伯友也(ゆうや)監督が長い歳月をかけて、部員を26人にまで増やしていった。周囲から「一体どんな魔法をかけたんだ?」と驚かれるその手法とは何なのか。
「初めて“メンバー外”が出ちゃった…」
「う、うそでしょ?」
1枚の集合写真に筆者が驚いたのは、これから夏の地方大会が始まろうとしている今年6月のことだった。
加美農のホームページに写っている野球部の選手を数えると、20人を超えているのだ。急いで佐伯友也監督に電話をかけると、感慨深い口調で話した。
「マネージャー1名を入れると26人です。加美農に来て初めてメンバー外が出ちゃったんですよ」
佐伯監督と出会った7年前。加美農は部員2人のチームだった。それがこの夏、メンバー20人、控え選手5人、女子マネージャー1名で宮城大会を戦うという。宮城の平均部員数が31.1人ということを考えると、堂々とした単独チームだ。高校から野球を始めた選手は3人。そのうちの1人、3年生の佐藤永遠(とわ)選手はスタメン出場する予定。本人のテーマは「最強の初心者」だ。
「永遠は中学時代、卓球部でした。ここ最近、練習試合でランニングホームランを打ったり、スクイズを決めたりと結果を出したんですよ。後輩たちに『俺にもできるんじゃないか』と思わせてくれる貴重な戦力です」
部員わずか2人「おれの腕の見せ所」
佐伯友也監督。全国的にはまだまだ無名の高校野球指導者だが、少人数野球部界の中では知る人ぞ知る存在になっている。