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「自分はずっと補助席で」“ヤンキースで叩かれた左腕”井川慶が味わった過酷マイナーとメジャー格差「ホテルでの名前はスタンハンセン、と」 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byNick Laham/Getty Images

posted2024/09/16 12:05

「自分はずっと補助席で」“ヤンキースで叩かれた左腕”井川慶が味わった過酷マイナーとメジャー格差「ホテルでの名前はスタンハンセン、と」<Number Web> photograph by Nick Laham/Getty Images

ヤンキース時代の井川慶。マイナー時代に経験した驚きのエピソードとは

「自分はもう、ずっと補助席でした」

 バスは1台だけで、しかも、日本人の井川には通訳がついていた。もし、座席に座ると隣は通訳になり、選手分を1席奪うことになる。そのため、気を遣って補助席に座り、10時間の移動に耐えた。

 日本のNPBのファームの選手でも新幹線に乗る。バスで移動しても、これほど長時間も缶詰めになることはほとんどない。食生活の乏しさからハンバーガーリーグともいわれるマイナーの厳しさを知った。

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 米球界は実力至上主義である。

 MLBを頂点とする三角形のなかで、待遇の格差は宿泊するホテルに如実に表れていた。2Aや3Aでは、ふたりで1部屋があてがわれる。だが、井川は個室だった。

「もう半額分、自分で部屋の料金を払えば1人1部屋になったんです。だから、ずっと、全額払って1人部屋にしていました」

井川が「スタンハンセン」と名乗った日

 メジャーリーグは至れり尽くせりだ。移動はチャーター機で、超高級ホテルに泊まる。セキュリティ—も“厳重”である。あるとき、阪神時代の同僚で、アスレチックスやジャイアンツでプレーした藪恵壹が井川に会いに来たことがあった。藪はホテルで井川を呼び出そうとしたが、「井川って名前はない」と言われたという。

 井川は笑って明かす。

「だって、ホテルに自分の名前を登録していないですから。『スタンハンセン』なんだから。でも、そういうことをするのってヤンキースだけなんですかね」

 ヤンキースは全米にファンを持つ超人気球団である。そのため、ホテルにも追っかけのファンが押しかけてくる。本名のままだと、ホテルの自室に見知らぬファンから電話がかかってくることもあるという。そのため、対策として偽名を用いていたのだ。

 井川は「スタンハンセン」と名乗った。プロレス好きであったこと。分かりやすいこと。スター軍団の涙ぐましい工夫である。

もう1年ぐらい、ちょっと野球をやりたいイメージが

 アメリカですごした5年間は、井川の人生において豊饒な日々になった。

「日本にいた時は、井の中の蛙でした。世界に出て努力で埋まらない力の差は身に染みてわかりましたし、世界は広いなと」

 井川は7月に45歳を迎えたが、中年太りとは無縁で、顔は引き締まっている。これから先、どのような道を歩むのだろうか。

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