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「あの今宮も落ち目?」からの逆襲…ソフトバンク今宮健太(33歳)が明かす「ケガを怖がったプレーなんてしたくない」復活のウラに“ある人物”
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/09/03 06:01
ソフトバンクのショートを守る今宮健太、33歳
阪神・上本博紀が放った当たりは、詰まりながらもショートの頭上を越えそうな小飛球となり、誰もが外野グラウンドにぽとりと落ちると思った。だが、今宮は諦めずに打球に目をやりながら、内野の土の部分を5、6歩、ステップを切りながら背走。そして最後は背面跳びのような格好から体をくるりと捻り、左手を懸命に伸ばした。
白球はグラブの中へ――いや、それでは終わらない。
無理な体勢でのジャンピングキャッチだったため、一度ボールがこぼれてしまったのだ。しかし次の瞬間、今宮は倒れ込みながら左肩を別方向に捻じり直してもう一度グラブでボールを追いかけた。空中での、ほんの一瞬の出来事である。そして今宮の体は地面に叩きつけられた。顔面も強打し、ユニフォームが首元から両方の鎖骨に沿うように裂けていた。それでもボールは再び左手のグラブの中に収まっていた。ヒットを確信していた上本は一塁ベース上で呆然。甲子園を埋め尽した虎党も一瞬静かになった。だが、事態を理解すると、ため息どころか敵ながらアッパレの大喝采がスタンド中から沸き起こったのだった。
ケガに泣かされ続けていた
そんな衝撃的なプレーから約10年。
今年の開幕直前、あの時と同じ阪神相手のオープン戦でも、木浪聖也の放った二遊間寄りのセンターへ抜けそうなライナー性の当たりでスーパージャンピングキャッチを決めている。
パ・リーグのショート出場記録で歴代1位に立った男は、常にトッププレーヤーとして走り続けてきた。一見すれば、そのように映るだろう。
しかし、実情はどうだろう。プロ9年目だった2018年からそれ以降は一度もゴールデン・グラブ賞を獲得できずにいる。
その年のシーズン終盤の守備で、逸れた送球を掴み右足を二塁ベースに伸ばした際に左太もも裏を痛めた。筋損傷だった。
今宮は自嘲気味に振り返る。