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甲子園準優勝の関東一が実は初戦で“負けかけて”いた!? 「世紀の番狂わせ」目前だった偏差値65「港区ナゾの中高一貫校」の正体とは?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by(L)Hideki Sugiyama、(R)Nanae Suzuki
posted2024/08/31 11:02
甲子園で史上初の決勝進出を果たした関東一高。そんな超強豪校が東東京大会の初戦でなぜ進学校相手に崖っぷちに追い込まれたのだろうか
3年前にベスト8に進出したことからも明らかなように、芝はそれなりの力を持っている。
芝は中高一貫校だが、中学ではリトルシニアに加盟するなど、硬球に慣れているのもプラスに働いているだろう。
夏の大会の初戦となった豊島学院戦では1対0というしびれる展開を制し、7月16日、いよいよ関東一高との対戦を迎える。
試合前、増田監督は関東一の先発をエースの坂井遼と予想していた。甲子園ではリリーフとして活躍し、決勝まで無失点を誇ったあの坂井である。
ところが、先発は2年生の坂本慎太郎だった。
「坂本君の名前を見て、私は『野手ピッチャーだから、ウチにもチャンスがあるんじゃないか?』と生徒たちに言ったんです。ところが、生徒たちに『監督、何言ってるんですか。彼はリトルシニアで全国優勝したこともあって、去年は“スーパールーキー”と呼ばれてたんですよ』と言われてしまいました(笑)」
坂本は甲子園で3番を任されていたが、中学時代は取手リトルシニアで“二刀流”として名を馳せ、鳴り物入りで関東一高に入学していた。甲子園優勝を目指すチームは、さすがに投手陣の層が厚い。
「高校生のレベルを超えている」関東一の守備力
そして、試合前のシートノックを見て増田監督は愕然とする。
「関東一高の守備を見て、これは高校生のレベルを超えていると思いました。フィールディングの軽やかさ、そして外野からの返球の質は素晴らしかった。送球のラインが低く、速い。選手たちの素質に加えて、本当に洗練されたチームだと感じました」
芝の先攻で試合開始。
芝は坂本を打てなかった。3回までにヒットを2本放ったものの、三振6つを喫した。それでも守備では1回裏、1番・飛田優悟の二盗を捕手の久米が刺し、さらには2回裏の一死一・三塁のピンチをしのぐ。
「ここでゲッツーが取れたんです。あれで今日はウチの流れで試合が進められると感じました」
3回まで両軍無失点。試合が動いたのは4回表、芝の攻撃だった。
<次回へつづく>