酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「パリ五輪、野球を除外したIOC役員に怒りを」“83歳で現役スポーツ実況”島村俊治アナが語る五輪野球「アトランタは松中信彦の満塁弾で…」
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/07 11:01
アトランタ五輪、キューバ戦での松中信彦。この一戦を実況した島村俊治氏に記憶を聞いた
「キューバはあまりにも強すぎる。散々ホームランを打たれて、大差を付けられて負けるのではないか。そう思うと気が乗らなかったんですね。隣は日本に負けたアメリカの放送席だったのですが、放送5分前、アメリカのコメンテーターが私に声をかけてきたんです。
『ヘイ!ジャパニーズコメンテーター!』
うるさいな、こっちはこれから喋るのに、と思っていたら、彼は私に向かってこう言ったんですね。『Anything is possible!』何かできるよって」
松中の満塁ホームランに思わず…
試合が始まると島村氏の予想通り、投手陣がキューバ打線に打ち込まれ、4回までに0対6と大量リードを許した。しかし日本はここから反撃ののろしを上げる。まずは松中信彦(新日鐵君津のちソフトバンク)がタイムリーヒットを放って1点を返すと……。
「5回に1点を返してなおも満塁で再び松中が登場し、ホームラン。私は『打球は左中間に上がった! 入った、同点満塁ホームラン、6対6!』と実況しました。私はその時、確かにAnything is possibleだったな、何かできるってこういうことなんだな、と思いました。
放送では『Anything is possible』は使いませんでした。何のことだかわかりませんから。でも、心の中でアメリカさん、ありがとうって言いました」
結局、決勝戦は9-13で日本はキューバに敗戦した。キューバは、リナレスが3本塁打、キンデラン、ウラシア、カルデス、パレ、パチェコも打って8本塁打が乱れ飛んだ。日本は松中の満塁本塁打に、谷佳知(三菱自動車岡崎、のちオリックス、巨人)も2本塁打を放つなど、意地を見せた。そこから四半世紀経った2021年の東京五輪で、日本は悲願の金メダルを獲得したのだった。
“あの言葉”は今も私の中に生きています
「Anything is possibleは、今も私の中に生きています。
私はオリンピックや、日本のプロ野球、高校野球の実況を担当して、その中から選手や監督、解説者の方々からたくさんの素晴らしい言葉をいただきました。その言葉を自分の心の中で活かしてきました。
これからも、私は、スポーツジャーナリスト、スポーツアナウンサーとして、いただいた言葉を活かして仕事を続けていこうと思っています」