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「ヘタクソなのになぁ(笑)」三兄弟の末っ子・セッター深津英臣が明かす“パリ五輪に選ばれた兄貴”への本音「でも、セッターは技術だけじゃない」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byHideomi Fukatsu
posted2024/08/01 17:05
東海大学時代の深津三兄弟。左から三男・英臣、現在は日本代表コーチの次男・貴之、パリ五輪に出場する長男・旭弘
五輪に出場する12名に入ったという知らせは父と三兄弟を含めた“深津家男グループ”LINEに届いた。「頑張ります」「戦ってきます」というシンプルな言葉だったが、選考も兼ねていたネーションズリーグの最中から、グループLINEだけでなく長兄の旭弘とは事あるごとに連絡を取っていた。
「タカ(貴之)はアタッカーでしたけど、兄貴と僕はセッターで、2人とも現役選手。なかなか自分らしいプレーができなくて自信をなくしていた時もあって、『あー全然あかんわ』とか、冗談半分、本気半分で言ってくるから『ダメとかいいとか関係ないから、自分らしく頑張ってよ』と連絡したり。最近は2人で“無”を手に入れよう、という話をするんです。そうなれば周りの環境にも流されないし、年齢に縛られることなくやっていける。どんな環境でも、自分らしいパフォーマンスができるんじゃないか、って」
「兄貴、ヘタクソなのになあ(笑)」
Vリーグのシーズン中も、試合のないタイミングを合わせて三兄弟で食事に行く。そんな話もごく当たり前のこととして耳にするぐらい、今でも仲が良い。とはいえ、同じポジションの選手として、しかも兄が日本代表セッターとしてパリ五輪に選出されたことをどう感じているのだろうか。
俺も兄貴もガツガツ行く年代を超えたから、と笑みを浮かべながら英臣が言う。
「去年のアジア大会では、下手したら20歳近く年齢の離れた選手と一緒にうまくやっていた。そういう姿を見るとすごいなって思いますよ。自分も同じことができるか、と言われたら俺は無理だな、と(笑)。でもそういう姿勢が、今につながっているのは間違いないですよね」
東海大学とパナソニック時代の先輩で、英臣が“セッターの師匠”と仰ぐのが宇佐美大輔(現・雄物川高監督)だ。北京五輪にも出場した宇佐美と顔を合わせたのはメンバー発表の前だったが、旭弘がパリ五輪に選ばれるのではないか、という話題で盛り上がった。
「『何であんなにヘタクソなのにオリンピックに行けるんだ』と冗談交じりで言うから、僕も『セッターとしてはトスもうまくないし、技術はないと思うんですよね』って(笑)。でも旭弘がすごいのはそれ以外のところ。コートを引っ張る、雰囲気を変えるあの空気感をつくるのは僕にはできないし、宇佐美さんも『俺もできなかった』って。『だからこそセッターというポジションは技術だけじゃない。深いし、学ぶことがたくさんある』と言うのを聞いて、本当にそうだな、と思ったし、旭弘の存在もまさにそう。家族としては素直に嬉しいし、同じセッターとしても勉強させてもらっています」
ヘタクソなのになぁ、と笑いながら何度も繰り返す。それならば逆に「うまい」セッターとは誰か。英臣が即答した。
「関田(誠大)です。うまいじゃなく、関田はむちゃくちゃうまいセッターですよ」