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あのDAISOホームラン直前「大谷翔平がベンチから消えた“12分間”」現地取材で記者が驚いた“大谷の時間術”「スマホは20秒しか見ない」「わずか19分間で帰宅」
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph byGetty Images
posted2024/07/25 17:03
現地7月21日、144m特大ホームランを放った大谷翔平。じつはその直前に“12分間”、ベンチから姿を消していた
大谷のベンチでの定位置は後方の右端。だが、打席を終えると、塁から戻ると、あるいはふとした時に、姿を消す。そんな光景が22日の試合中には、「7回」見られた。12分、ベンチを空けていたこともある。
長年メジャーリーグを追う日本人記者によれば、エンゼルス時代はこれほどベンチ裏へ行くことはなかったという。そうした変化の理由として考えられるのが球場の構造だ。エンゼルスの球場は「ベンチからクラブハウスまで道が入り組んでいて遠かった」という。それゆえ、野手が試合中にクラブハウスまで戻ることが難しかった。時間がないからだ。ところがドジャースは、その距離が近い。クラブハウスのすぐ隣にはビデオルームがあることもわかった。つまり、打撃の修正がいつでもできる環境なのだ。
それでも大谷は、試合の動きを正確に把握している。一見すると「早すぎるのではないか?」と思うほどに先んじた準備が、その証拠である。いずれの打席も、1番バッターの大谷から3人も前、つまり7番打者が打席に立っているときにレガースやバッティンググローブをつけ始める。そして8番打者のタイミングで、ほぼスタンバイ完了。はたまた9番打者から始まるイニングは、その打者を抜かして先にフィールドへ出ている。相手チームの選手でさえ、ほとんど守備位置についていない。早く打席に立ちたい。修正点を試したくて仕方がない。そんな素朴な欲望が漂っている。
「今の見たかよ? クレイジーだ……(筆者に向けて)初めてのメジャー取材で、すごいのを見られたね」
記者席で隣にいたダグ・マケイン氏(ドジャース専門メディア『Dodgers Nation』)が興奮気味に話しかけてきた、21日の“ダイソームラン”がまさにそうだった。前の打席で凡退後、ベンチから姿を消すこと12分間。ベンチに戻れば、9番打者より先にフィールドに出て打撃に備える。特大弾が生まれるまでのルーティンだ。よほど鮮烈だったのだろう。マケイン氏はその後10回以上、ホームランの動画を再生しながら、「Wow!」と繰り返していた。
乱闘騒ぎ以外は「自分に集中する」
そしてもう一つ、ベンチにいる大谷を観察してわかったことがある。試合中、大谷がチームメイトと会話をするシーンが少ないことである。凡退後に、中島陽介トレーナーやアイアトン通訳らと二言三言。HR直後の山本由伸らチームメイトからの祝福を除けば、同僚とのコミュニケーションは5回以内に限られる。その数少ない会話のシーンは、観客席で乱闘騒ぎがあったときだった。