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「それって、野球はできますよね?」名門ボーイズ選手を襲った“骨肉腫”という病…慶大&関大の野球部主将が振り返る「チームメイトとの物語」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph by(L)JIJI PRESS、(R)Takeshi Shimizu
posted2024/07/05 17:02
現在、慶大で主将をつとめる本間颯太朗(左)と関大主将の藤原太郎。2人はともに奈良の生駒ボーイズ出身で、あるチームメイトと関わりがあった
「最初は筋肉痛かなと思ったんです。運動はできた。そのうち治るだろうと。ある日、急に夜、肉離れみたいになって走れなくなって。次の日、朝起きようと思ったら、立ち上がれなかった」
生駒ボーイズにはメディカルチェックがあって、その前後毎日、足が痛いと書いていたという。
音野と同期、生駒ボーイズ13期の主将は藤原太郎。2024年度は関西大のキャプテンを務める。藤原が入団当時を振り返る。
「峻也は当時、ピッチャーでした。テンポが良くて守り易かった。入団してすぐの13期の最初の試合の勝ち投手は峻也だったんです」
そこから間もなく、とんでもない病気が見つかることになる。
音野の父・淳一は息子が練習の捕食の弁当を残してくることが気になっていた。
「嫁はんが、弁当を食べて帰ってけぇへんというんです。それと足が痛いって。自主練習でボールが当たったことがあって、それでかなと。近所の町家の病院で診てもらったら、『こけたら骨が折れるよ。大きな病院を紹介しますから、とにかく行ってください』って」
国立医療センターにいって患部組織を取って精密検査の結果をまった。2週間後、入院の準備をして来てください、と連絡があった。夫婦二人で医師と対面した。担当医は唐突に告げた。
「右膝から大腿骨の骨肉腫です」
「それって、野球はできますよね?」
淳一はストレートに言われて、ハッとする瞬間さえもなかった。
「そんなん言われてもわからへんから、それって、野球はできますよね?」
そう尋ねていた。返ってきた言葉は「プレーヤーとしては無理です」という無情なものだった。
入院して転移していないかを検査して、細菌を抑える投薬治療をしてから、人工関節を入れる手術をした。ドイツ製のものだ。10時間かかった。きつい麻酔のため、たびたび痙攣をおこす息子の姿を両親はICUのガラス越しに見た。一日近く経って麻酔は覚めた。
関節は10日間ぐらい動かなかった。だが、そのままにはできない。固まらないうちに動きを覚え、慣れないといけない。自分の意志では動かないため、動かすための機械の助けがいる。今日は何度、明日は何度まで曲げる、というリハビリが始まった。