近鉄を過ぎ去ったトルネードBACK NUMBER
野茂英雄がバースデー完封勝利を目前に緊急降板…メジャー1年目の夏に始まった“爪問題”「割れた原因ですか? それは、僕が投手だからです」
text by
喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2024/06/02 11:04
1995年、メジャー1年目から快進撃を続けた野茂英雄。しかし、完封目前だった8月31日のバースデー試合で急遽マウンドを降り…
まず割れた爪にヤスリをかけ、その上にマニキュアを塗る。続いて爪の形に切った極薄のシルクをその上に張り、さらにマニキュアを塗り重ねるという“トリプル層方式”で、爪の保護と回復を図るのだという。
同僚・キャンディオッティの方法を参考に
当時、ドジャースにはナックルボーラーのトム・キャンディオッティが在籍していた。38歳のベテラン右腕はナックルの握りで指を立てるため、爪には負担がかかって割れやすいそうで、日頃からのケアが欠かせないのだという。
だからネイルサロンにも通い、そこで独自の“爪保護法”も学んできたのだという。野茂も、その“キャンディオッティ方式”で爪のケアを行ったというわけだ。
中4日で迎えた9月5日、ドジャースタジアムでのフィリーズ戦も5回85球で降板。右手中指の爪に入っていたヒビは、中央やや左、縦7ミリほどだったが、この日の登板の負担で、ヒビの“終点部分”をかすめるように、爪の付け根部分よりやや上の部分から横にもヒビが入ってしまった。
この日の3回には5つ目の三振を奪い、1966年にドン・サットンがマークした球団の新人奪三振記録の「209」を更新。それでも、フォークの落差を生み出す起動力でもある右手中指の爪に2カ所もヒビが入ってしまえば、続投は不可能だった。
地区優勝争いが激化する中、一体、野茂はどうなるのか――。
野茂の次の登板は、まだ分からないよ
翌6日、試合前のドジャースタジアムには、球団の要請で外科医が往診にやって来た。ヤスリで爪の長さを一定に揃え、一部をカット。爪のはえ具合が揃うようにまず手入れを施した上で、その患部が悪化しないよう、専門医の治療も受けさせるという念の入れようだ。