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「菊池涼介以来の衝撃だった」抜きん出た守備力に打力を加え、レギュラー奪取を狙うカープ4年目矢野雅哉の正念場 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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posted2024/04/22 11:01

「菊池涼介以来の衝撃だった」抜きん出た守備力に打力を加え、レギュラー奪取を狙うカープ4年目矢野雅哉の正念場<Number Web> photograph by JIJI PRESS

セカンドで打球をさばく矢野。今季はショートとの併用でセンターラインの守備に貢献している

 飛び抜けた一芸を磨きつつ、走力でも首脳陣の信頼を高めていった。新井体制となった昨季、代走としての起用が前年の9試合から26試合に増えた。チーム内でも特別足が速いわけではない。本人も自覚しているからこそ、ベンチから相手投手の一挙手一投足から癖や傾向を探る。単純な脚力だけでない総合力で勝負する。現体制の積極的な姿勢を後押しする空気が思い切りの良さにつながっている。

「2年目までは『走ってアウトになったらどうしよう』と思っていたんですけど、新井監督、(藤井彰人)ヘッド、アカさん(赤松真人外野守備・走塁コーチ)もミヨさん(三好匠内野守備・走塁コーチ)も『どんどん行っていいよ』と言ってくれる。アウトになってベンチに戻ってきても『もう1回行けよ』って言ってくれるので、迷いがなくなる。周りのおかげもある」

「守」でプロ入りし、「走」で出場機会を増やした。そして今年は「走攻守」にわたって充実を見せる。

「新井監督から『あれっと思うくらい早くタイミングを取ってみろ』と言われて。真っすぐに泳ぐくらいの感覚。こんなタイミングでも行けるんやというものをつかんでから、バッティングが変わった」

 きれいな放物線を描く打撃に憧れたことなどない。育英高時代から2ストライクまでは振らず、球数を投げさせることを考えていた。それが生き抜いていくスタイルだと自負していた。プロでも粘り強い打撃を貫いてきたが、左方向中心の打撃だけでは相手に怖さを与えられない。

 春季キャンプ中の新井監督の助言が転機となった。 2次キャンプ2日目のシート打撃で、セットアッパーの島内颯太郎からライトライナーを打ち返したスイングに「このバッティングをしていけば勝負できる」と感じたという。

 打撃に力強さが増した。右方向への打球割合は、昨季の.374から.522に急増。記録は凡退でも、進塁打となるケースも見られる。無論、持ち味である粘り強さも失われていない。規定打席未到達ながら、P/PA(打者が1打席にどのくらいの球数を投げさせているかを表す指標)では、リーグトップのヤクルト村上宗隆の4.56を上回る5.00をマークする。

レギュラー奪取への覚悟

 虎視眈々と狙っていた場所に近づいている実感はある。その覚悟は矢野のコメントの変化からも伝わる。シーズンが始まったばかりの頃は「レギュラーを取れたら一番いいけど、今は与えられたところで必死に食らいついて頑張っていきたい」などと控えめなコメントに終始していた。

 だが、前日の二塁に続き、遊撃で2戦続けてスタメン出場した4月14日の巨人戦後にはっきりと宣言した。

「セカンド、ショートどっちか、今がチャンスだと思う。チャンスをいただいているので、今しっかり頑張りたい」

 分岐点を眼前に、謙遜も躊躇もない。次なるステージへ上がるチャンス。年下の侍遊撃手と10年連続ゴールデングラブ賞の名手を相手にも、怯むことなく突き進んでいく。

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