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“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「僕のお父さんは悪役レスラー」“暴走専務”の息子(Jリーガー)が明かす“最強の英才教育”「ヒーローはウルトラマンよりも傷だらけの父」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2024/04/20 11:01
2026年から横浜F・マリノスに加入する筑波大DF諏訪間幸成(3年)。父譲りのフィジカルが特長のセンターバックだ
目の前の相手に全力でぶつかり、勝てばリングの支柱によじ登って、必ず家族を探して雄叫びを上げてくれる。試合に負けた日は、自分よりも悔しがる息子に優しく接してくれるよき父だった。
「お父さんは口にはしなかったのですが、戦う姿を会場やテレビで見る度に『家族のために戦っている』とヒシヒシと感じるんです。友だちは戦隊シリーズやウルトラマンに憧れていたけど、僕にとって憧れは父であり、ずっとヒーローでした」
棚橋弘至を撃破「幸成、持ってみな」
幸成が5歳になろうとしていた2008年4月、忘れられない思い出がある。父・諏訪魔は全日本プロレスの“春の祭典”と呼ばれる「チャンピオン・カーニバル」の決勝戦で同学年である新日本プロレスの棚橋弘至を必殺技「ラストライド」からの体固めで破った。デビューから最短での優勝だった。
この試合を幸成は自宅のテレビで家族と観ていた。試合後の表彰式で大きなトロフィーを掲げる父の姿を見て、何度もガッツポーズをした。
「まだかな、まだかな、とお父さんの帰りを待っていました」
放送が終わってから夢中になって試合を見返した。何度も玄関とガレージを往復していると、父が乗る車の音が聞こえてきた。帰ってきた父はトロフィーをドンと玄関に置き、こう言った。
「幸成、持ってみな」
トロフィーは自分の身長より大きい。重くて両手で持ち上げようとしてもびくともしない。
「お父さんは笑いながらトロフィーを片手でヒョイと持ち上げ、反対の手で僕を抱き上げたんです。あの景色は今でもはっきりと(記憶に)焼き付いています。いつもの玄関なのに、まるでリングの上に立っているような気分になって、めちゃくちゃ誇らしかったんです」
トロフィー以上に父が輝いて見えた瞬間だった。