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甲子園の風BACK NUMBER
「清原和博よりも桑田真澄の方が嫌だった」最強のPL学園に“秋田の雑草軍団”はどう立ち向かったのか? “40年前の金農旋風”のウラ側
text by
安藤嘉浩Yoshihiro Ando
photograph byAFLO
posted2024/03/31 06:01
高校野球界の大スターだった桑田真澄と清原和博。40年前、金足農は「KKコンビ」を擁するPL学園をあと一歩のところまで追い詰めた
清原を歩かせ、桑田に投じた「運命の120球目」
主砲はここまで四球、中飛、右飛と安打はない。金足農バッテリーは「むしろ5番の桑田の方が嫌だった」という。
しかし、甘い球は禁物だ。厳しいコースを突いているうちに歩かせてしまった。1死一塁。
1回は2死二塁から清原を歩かせ、桑田に勝負を挑んだ。内角直球でファウルを打たせた後、2球目の外角カーブを引っかけさせて三塁ゴロに打ち取っている。
金足農バッテリーには、そのイメージが残っていた。長谷川はまず外角に外すストレートを要求した。これがコースいっぱいに決まってストライクになる。
桑田のバットは動かない。長谷川は「カーブを待っている」と確信した。実際、桑田は打席に入る前、監督の中村順司から「初球からカーブを狙っていけ」と言われていた。
長谷川は2球目にカーブのサインを出した。ただし、外角にボール球にする。
「強引に打ってくれれば、1打席目のように三塁ゴロになる。見送られたら、3球目、4球目に内角直球で勝負する作戦だった」
そのカーブがストライクゾーンに入っていく。待ってましたとばかりに、桑田のバットが白球を捕らえた。
高々と上がった打球は左翼ポール際のスタンドに吸い込まれた。
逆転2点本塁打——。
好投を続けた水沢の120球目だった。
「コントロールが甘くなっていたから、狙っているカーブを挟まず、真っすぐを続ければよかった」。長谷川は悔やんだ。
打たれた水沢は別の感情を抱いたという。
「打ってもファウルになるコース。参りましたという気持ちだった」
この一発で、金足農の快進撃は終わった。
「桑田がうちを準決勝に導いてくれると思ったんです」
後日談がいくつかある。
2度目の「金農旋風」となった2018年夏の第100回記念大会。後輩たちの応援に駆けつけた水沢、長谷川バッテリーをアルプス席に訪ねた。
「今日も絶対に勝ちますよ」
準々決勝の試合前、一塁側アルプス席で長谷川はぼくに予言した。
「確信があるんです。分かりますか?」
すでに準々決勝の3試合が終わり、準決勝の組み合わせが確定していた。金足農は勝ち上がったら、第1試合に入る。
第100回大会を記念して連日行われた「レジェンド始球式」で、あの桑田真澄が登板することが決まっていた試合だ。