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「もっと選手に厳しくしたら」と言われても…“怒らない野球”で強豪撃破《甲子園初出場初勝利》熊本国府・31歳の童顔監督が示す「シン・高校野球」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2024/03/19 11:01
春夏通じて初出場となる甲子園で強豪・近江を破った熊本国府高校。その強さの裏には令和の時代らしい指導が
「自分が伝えた6、7割できていればいい」
高校生の目線に立つことを心がける山田が選手に求めることは、時にアバウトだ。
「大人である自分が伝えた6、7割できていればいいんじゃないかな、と」
このほどよい加減は、言うなればきっかけだ。「こうしたほうがいいんじゃない?」といった道を示すことが、選手たちの成長促進へと結びついていく。
近江戦で見事なリリーフをこなした植田が、そのひとりである。
高校入学当初はオーバースローだった植田のピッチングを見た山田は、投げ方にぎこちなさを抱いた。そこで、「もう少し腕を下げてみたら?」とアドバイスをすると、次第に変則左腕が形成されたのだという。
「最初に植田を見たときに、体の動きが横回転だったのでそう言っただけで、あとはなにも。僕は『少し』としか言っていないのに(笑)、自分でどんどん腕を下げていって、今のフォームになってしまいました」
監督が提示した「少し」。
それが、植田にとっては大きな可能性となったわけだが、山田はあくまでも選手の成果であることを強調する。
「僕は気づいたことを言っているだけなんで。あとは、選手が考えてやればいいんです」
大人という殻を破り高校生と接してきて3年。山田はこれまでの足跡を「あっという間だったかな」と辿る。
そう、まだ立ち止まる場面ではない。なにせ、チームが目指すのは「甲子園ベスト4」。初出場初勝利に満足していられないのである。
山田が心に携える「シン・高校野球」。
青年監督とチームの春の旅は、まだ続く。