ゴルフPRESSBACK NUMBER

元祖・天才少女が苦しんだ誹謗中傷と世間の冷たい視線「まるでサーカス」「ボギーで観客が失笑」ゴルフ界から消えたミッシェル・ウィーの今 

text by

舩越園子

舩越園子Sonoko Funakoshi

PROFILE

photograph byAP/AFLO

posted2024/03/11 06:00

元祖・天才少女が苦しんだ誹謗中傷と世間の冷たい視線「まるでサーカス」「ボギーで観客が失笑」ゴルフ界から消えたミッシェル・ウィーの今<Number Web> photograph by AP/AFLO

昨年の全米女子オープンを最後に第一線から退いたミッシェル・ウィー(2023年12月撮影、34歳)

 そんな冷笑、嘲笑の空気があちらこちらに漂っていたことが、ウィーの心身をひどく疲弊させていたことは、試合会場の最寄りの空港で彼女の姿を一目見たとき、すぐさま理解できた。飛行機の搭乗を待つわずかな時間でもウィーはゲート前の椅子に座り、父親の肩に崩れるようにもたれかかって眠りに落ちていた。

 男子の試合で予選通過を果たせれば、世間の冷たい視線は温かいものへと変わったのだろう。しかし、それがなかなか叶わなかったことは、一層重いプレッシャーとなってウィーにのしかかり、彼女をとことん苦しめた。

「マルヤマサン、ゴメンナサイ」

 今でも忘れられないのは2006年のジョンディア・クラシックでの出来事だ。当時16歳だったウィーと予選2日間を同組で回ったのは、当時PGAツアーに参戦していた丸山大輔ともう一人は無名の米国人選手だった。

ADVERTISEMENT

 試合会場は初日から、やっぱりサーカス状態。猛暑と緊張と大観衆からの好奇の目にさらされて、ウィーのゴルフは大荒れとなり、2日目は熱中症のような症状に見舞われて、ラウンド中に何度も座り込んだ。

 それでも彼女は「私を見に来てくれているお客さんに申し訳ない」と言って、プレーを続けていたが、同組の米国人選手は「プレーは遅いし、途中でドクターを呼ぶし、散々だ」と怒声を上げ、結局、彼女は途中棄権して救急搬送されることになった。

 去り際に、ウィーはフラフラした足取りで丸山に歩み寄り、「マルヤマサン、ゴメンナサイ」と覚えたての日本語で謝った。

 まだティーンエイジにしてウィーが抱えていた苦悩や悲哀をその場で感じ取った丸山は、優しい笑顔を浮かべ、無言で彼女の手を握った。思わず涙を誘われたあの場面は、今でも私の脳裏にしっかりと焼き付いている。

【次ページ】 名門スタンフォード大学に進学

BACK 1 2 3 4 NEXT
#ミシェル・ウィー

女子ゴルフの前後の記事

ページトップ