ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
19歳で妊娠が判明「ゴルフよりも、命を優先したかった」4度目で悲願のプロテスト合格…ママさんゴルファー神谷和奏22歳の挑戦
posted2024/04/03 11:03
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Getty Images
……クルマに揺られてウトウトしているうちに、決まって着く場所。見渡すかぎり緑の広場はおっきな公園みたいなのに、すべり台も、お砂場もない。
ここはゴルフの練習場、それも“打ちっぱなし”って言うみたい。
まだ歩けなかった頃、わたしのお昼寝エリアはたいてい、この隅っこだった。南向きの打席にはお日様の光がたっぷり降るから、ベビーカーでいつのまにかぐっすり……。
たまに目を開けると、白い小さなボールが見えなくなるまで遠くに飛んでいく。パシッ……またパシッ……! おやすみのメロディよりも、ワタシにはこの乾いた響きが子守唄。
いまから読んでもらうのは、この音を奏でる大好きなママの話。去年の冬、ワタシのママはプロゴルファーになったんだ――
◇ ◇ ◇ ◇
今年も沖縄で開幕した日本女子ゴルフツアー。国内最高峰の華やぐ舞台に立つ選手たちは、あまたいるプロゴルファーのほんの一部でしかない。とくに日本では、安定的なトップツアーへの出場資格を得るためには、基本的に日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のプロテストを通過する必要がある。合格者は毎年約20人に過ぎない。
昨年11月、その狭き門を通過した中には、一発合格を果たした18歳の馬場咲希をはじめ、アマチュア時代に輝かしい成績を残した選手のほか、何度目かの受験でようやく努力が実を結んだ苦労人もいた。22歳の神谷和奏(かみや・わかな)も、きっと後者の部類に入るだろう。それまでに3度、不合格の経験があったからだけではない。
彼女は現行のツアー制が施行(1988年)されてから史上初めて、出産後に入会した選手。ルーキーにして、2歳の長女を育てるママさんプロなのである。