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「落合はそら嫌われるわ」ロッテ落合博満、三冠王のウラに“名コーチ”がいた…落合が“悩み相談”した日々「でも彼はありがとうも言わない」
posted2024/02/22 17:05
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph by
KYODO
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1984年から1986年まで、ロッテオリオンズのバッティングコーチを務めた広野功(元中日、西鉄、巨人など)は、就任してからの1年間、落合博満のバッティング理論を聞き続けた。それを踏まえて落合のバッティングを観察していくと、彼の好不調のサインが察知できるようになったという。
「落合から1年間学び、吸収したことを彼の“鏡”になって返そうと思いました。つまり、落合の調子が悪いときやいつもと動きが違うときに、ベストな状態を知っている私から気づかせてやるのが役目だと思ったんです。彼の一番いいバッティングを思い出させる言葉をかけ続けました」
落合博満に「ジッと睨まれた」
1985年シーズンから広野は、練習中に気づいたことを落合にさりげなく伝えた。
「たとえば、バッティングケージの後ろから見ていると落合のちょっとした変化がわかるんです。打つ瞬間まで、ヘルメットの後ろに書かれている背番号の6が動かないときは、顔がブレずにきちんとボールが見えている証拠なのですが、それが崩れる日がある。そんなときは私は『落合、今日はちょっとヘルメットの6が動くのだけど、それでいいの?』と言うんです。そういうとき彼は黙ったまま、私をジッと睨む。でも、次に打つときには頭がまったく動かず、ぶれないスイングに直っているんです」
こうした広野の指摘は細部まで及んだ。
「ある練習で左足のかかとの着地が早いときがありました。それをずっと見ていた私は『落合、いつもは母指球が着いて、一呼吸あるんだけど、今日はヒールダウンがやけに早いね』と伝えました。また彼は黙ったまま、私をギッと睨む。でも、次の日には修正してきて、バッティングの調子が良くなっているんです。私が落合にしたのは、そういうことの繰り返しでした」
「(落合は)そら嫌われるわ」
睨まれ続けた広野だが、ときには落合が悩みを吐露する場面もあった。試合前の練習中、しきりに首を傾げる落合に広野が訳を聞くと「トップに全然入らないんだけど、どうしようかな」とぼやいたという。