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“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
“進学校の10番”ギリギリまで揺れた「大学受験か、プロか」急転直下の“高卒Jリーガー誕生”ウラ話「参考書持参で入団テスト」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2024/02/19 11:02
北海道コンサドーレ札幌への加入を発表した名古屋高校・原康介(3年)
原の覚悟に引っ張られるように、名古屋高校は愛知県代表の権利を勝ち取った。
10番を託されたストライカーにとって、選手権でのハイライトは2回戦の北海戦だった。長短のスプリントを状況に応じて繰り出し、何度もチャンスメイクして1ゴール2アシストの大車輪の活躍。相手CKのこぼれ球を拾って、そのまま長距離をドリブルで運び切って生まれた1点は、まさに自主練の成果が現れたゴールだった。
勢いに乗る名古屋高校は3回戦で前王者・岡山学芸館を下し、ベスト8進出を果たした。
躍進の最中、名古屋高校サッカー部員は、宿舎での時間や隙間時間を見つけては参考書を開き続けていた。アピールを続けていた原も、この時はまだ大学受験を見据えていたーー。
だが、本気で“二兎”を追いかけた高校生の思いは、ついにプロの目利きに届く。札幌の鈴木智樹スカウトが躍進著しい名古屋高校の試合を全てチェックしていたのだ。
もともと同校の大久保隆一郎ヘッドコーチと親交があり、大会前から「ぜひ注目してほしい」と言われていた背景はあったものの、「これは早く(獲得に向けて)動かないとまずい」と気持ちが切り替わった。
「北海戦で強烈なインパクトを受けました。スピードだけではなく、インテリジェンスがある選手だなと。その時点で、キャンプに呼ぼうと思っていました」(鈴木スカウト)
勝負のキャンプ前にしっかり「予習」
優勝候補の市立船橋と大熱戦を繰り広げた準々決勝の翌日、原のもとに沖縄キャンプ参加のオファーが届いた。あくまでもテスト生としての招待とはいえ、大きなチャンスが転がり込んできた。
とはいえ、近年の高校サッカー事情では、高卒内定する有望選手はほぼ2年時から3年時の早い段階で行き先が決まるのが常だ。大学への進路も3年夏にはほぼ決まる。争奪戦は早まるばかりで、今回のようなケースは極めて稀だと言っていい。
わずか8日間のキャンプで、正式オファーを掴み取れるのか。
この挑戦は決して簡単ではない。それを理解していたゆえに――原は早速、コンサドーレの「予習」を始めた。
(後編「ミシャの予習、勝負の沖縄キャンプ」に続く)