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ボクシングPRESSBACK NUMBER
名門ジムから31歳で《プロボクサー転身》…“五輪延期で引退決断”の陸上元日本代表のナゼ「陸上競技の晩年より、今が楽しい」意外なワケは?
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byL)AFLO、R)Shigeki Yamamoto
posted2023/12/26 11:02
2018年のアジア大会では4×400mリレーなどで日本代表に選ばれた木村淳さん。現在は大阪帝拳ジム所属のプロボクサーだ
「僕はオリンピックに出て、日本記録を叩き出すような選手になりたかったんですよね。でも、現実はそこまでのレベルには届かなくて、その理想との差をどう埋めていくかと葛藤しながらやってきました。日本代表といっても、結果を残してメダルを獲る選手からギリギリ代表に入る選手までいて、本当は『上澄み』のほうになりたかった。日本代表という一定の結果は残せたけれど、自分としては不本意というか……もっと上を目指したかったという気持ちはありました」
また、同級生の飯塚、1学年下の山縣亮太(セイコー)ら同世代のトップスプリンターとの差を肌で感じながら過ごした現役生活でもあった。
「僕はフィジカル面のポテンシャルは高いほうだったと思います。ただ感覚的に優れた選手ではなかったと分析していて。ある程度のレベルまでいけば、みんな等しくフィジカル的な能力を備えていると思うんです。そこからさらに上を目指すには、身体の隅々まで感覚を研ぎ澄まして、持っている力を100%、120%発揮できるかが大きいと思っていて。特に山縣とかはその身体の感覚が本当にすごいですし、やっぱりその能力がないと上澄みまではいけないんだなと」
「やっと陸上から解放される」…向かった先は大阪帝拳ジム!
そう静かに語る木村。自身の能力を冷静に分析できるからこそ、埋めたくても埋められない差に気づいて苦しんだ面もあっただろう。「やっと、陸上から解放される」。引退発表から2週間後、彼が向かったのは会社近くの大阪帝拳ジムだった。
「小さい頃から格闘技は好きだったし、マニア気質なところもあるので、現役選手だけでなくて、昔の試合の映像を見たり、調べたりするのも好きで。陸上を辞めて肩の荷が降りて、けっこうルンルンとした気分でジムに行きましたね(笑)」
大阪帝拳は、“浪速のジョー”こと辰吉丈一郎らを輩出した名門だが、プロ志望だけでなく、痩身コースやキッズ向けのコースもあり、老若男女問わず幅広い年代の会員がジムを訪れる。木村にも「趣味」として始める選択肢もあったはずだ。
「どのコースにする?」
「プロ目指します」
初回体験時、スタッフに入会コースを聞かれた木村は、迷いなく「プロ志望コース」を選んだ。
「プロ資格のある競技って少ないじゃないですか? せっかくやるなら目指してみたいなって」
そうして木村はスパイクからボクシングシューズへと履き替えた。厳しいトレーニングや過酷な減量はもちろんだが、それ以上に壁となったのは社業との両立だったという。
29歳で引退した木村は、大阪ガスネットワークの新人営業マンとして駆け出したばかり。本格的に会社員としてのキャリアが始まり、慣れない外回りに四苦八苦していた。