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「気を遣わせたくない」隠し通した最愛の人との別れ…ロッテ・吉井理人監督が声を震わせた日「母さんに何かしてあげられたかなぁ…」〈今明かす2023激闘秘話〉
text by
梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph byChiba Lotte Marines
posted2023/12/25 06:06
「母の日」のミーティングで吉井監督が選手たちにかけた言葉には、ある思いが隠されていた
「なんでおるねん!」と驚いた。
「大事に使っていた座布団を忘れていたから車で持ってきてあげた」と言われた。和歌山から藤井寺まで電車で行くよりも車の方が早く着いていた。
「そんなのいらんよと思ったね。当時は。でも今思うと、それくらい心配だったのだと思う。田舎から息子が一人で大阪の都会に行くのがね」と懐かしき日を振り返り、笑った。
野球が好きだった。メジャー移籍後もアメリカまで試合を見に来てくれた。ニューヨーク、デンバーにも遊びに来てくれた。
「ニューヨークでは自分がいない時にわざわざ管理人に『いつも息子がお世話になっています』と挨拶をしていたらしい。向こうにはそんなことを挨拶する文化はないよと思った。楽しい人だった」と思い出す。
両親を相次いで亡くしていた
吉井監督は前年2022年12月に父を亡くし、今年5月に母を亡くした。弟、妹の3人を育ててくれた最愛の両親を相次いで亡くした悲しみを胸に秘め、チームにはあえて伝えずに監督1年目の日々を過ごした。2人とも野球が好きだった。
監督1年目のシーズンは、交流戦が始まるまで首位を走っていたが6月を8勝12敗2分けと負け越すという苦しい戦いを強いられた。7月は13勝7敗と持ち返したが、8月が11勝15敗1分け。9月は7勝16敗と大きく負け越し一時は4位まで失速した。それでも勝てば2位、負ければ4位という仙台でのシーズン最終戦まで持ち込んだ。
見事に勝利を収めて70勝68敗5分けの2位。CSファーストステージも1勝1敗で第3戦までもつれる大激戦の中、最後は延長十回に3点のリードを許しながら4点を奪い返す劇的サヨナラ勝利を納め、勝ち進んだ。選手たちとのコミュニケーションを大事にし、お互いの考え方を理解しながら、のびのびとプレーしやすい環境を作ってきたからこそ苦しい土俵際で選手たちはいつも以上の力を発揮した。チーム一丸で勝ち進んだ。