沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
「あの人は障害の天才」武豊も絶賛した熊沢重文の技術とは? 有馬記念と中山大障害を制した名手が“危険なレース”に乗り続けた本当の理由
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byNumber Web
posted2023/12/23 11:04
11月に騎手としての現役生活を終えた熊沢重文。引退の契機となったのは障害レースでの落馬事故だったが、「障害は本当に楽しかった」と振り返る
ファンを沸かせた勝負師の“謙虚な自己評価”
自分はどんなジョッキーだったと思いますか、という問いには、少しの間考えてから、こう答えた。
「初騎乗の競馬場でGIを2つ勝てたのはたまたまで、いい縁に恵まれ、いいタイミングで乗せてもらったからです。ぼくに何か特別なものがあったからではない。チームワークで勝たせてもらったというか、チームの一員として仕事をさせてもらっただけです」
ファンから見ると、特にGIでは何かをしてくれそうで、気になる存在だった。
「そう言ってもらえるのは嬉しいです。同じ結果を出すにしても、どう特徴を出したかが問われる時代に騎手になったからですかね」
今の体重は53kgほど。現役時代と変わっていない。
「癖みたいなもので、毎日体重を量ってしまいます。最後の2年ほどは休んでいたので、気持ちの区切りはついています。騎手時代にはできなかった旅行に行って、気に入った土地が見つかればそこに住んでもいいかなとも思っています。次はどんな仕事をするか、まったく決まっていません。馬に乗れないので、厩舎関係ではない仕事になります。まだ人生の先は長いですし、飯代くらいは稼がないといけないのでね」
寡黙なプロフェッショナルという印象の騎手だったが、馬の話になると雄弁になる。言葉を尽くして意図を正確に伝えようと、相手の目を真っ直ぐ見て語りかける。
2時間強の取材が、とても短く感じられた。
またどこかでじっくりと、馬と騎手の話を聞かせてもらいたい。
<第1回「ダイユウサク編」、第2回「ステイゴールド編」もあわせてお読みください>