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NPB最高身長2mの“超大型左腕”はなぜ消えたのか?…《2020年巨人育成8位》阿部剣友の“育成→戦力外”で考える「早すぎるプロ指名」を巡る難しさ
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/19 17:27
戦力外の阿部剣友と同じ大型左腕である日ハム・上原健太は今季、自身最多の100イニング超の登板機会を得たが、開花には時間がかかった
お互いに、都合や野心が満たされて、一見、ウインウインのめでたし、めでたしのようにも見えるが、本当にそうなのだろうか。
ものごとには、いつも「タイミング」というものがあり、そのタイミングをうまいこと捉まえた者は、自身を自己実現につなげていけるが、見失ったり、逸したりすると、一人の有望な若者の一生のゆくえを少なからず左右してしまう現実をいくらも見てきた。そして、せっかくの豊かな才能が開花前のつぼみの段階で、無に帰する無念さ。それは、見てきた者より、本人自身が誰より痛く感じるものではないか。
野球に限らず、素質開花に要する時間と開花の時期には「個体差」があるのは、一般に知られていることであろう。
「いつプロに行くのが正解なのか」という難問
野球的にまだあまりにもつたない時期に、プロ側の都合や選手本人の夢やあこがれだけで、また、まわりの大人たちの「声をかけていただくのは、ありがたいことだから」という、理由にもならないような理由だけで「まだ早い若者たち」を、天才たちだけの集団に進ませてしまってよいものなのだろうか?
高校からプロに進み、引退した者が、大学野球部に入部し直すことが許されていればよいが、ルール上、今、それはできない。
ならば、いずれプロで活躍できる器として、しかし今はまだそのタイミングにあらず……そうした切り口での評価や判断がないと、地下資源のみならず、人的資源だって豊かじゃないこの国の「野球の才能」は、ますます枯渇していくばかりではないのか。
年若くしてそうした判断力に乏しい選手たちに、そこまで問うのは酷かもしれない。ならばいま一度、選手のまわりを取り巻く大人たちが、選手たちの「本質」について、見識を持った判断をしなければならないのでは……オフの今ごろ、毎年、そんなことを考えている。