「198本目はスライダー、199本目はストレート。どっちも自信のある球だった。200本目のフォークだって、自分じゃ納得できる球。打たれるのは仕方ないけど、さすがに今までどおりじゃダメだとは思ったね」

　翌年、園川はシュートを身につけた。左打者の内角に食い込んで行くシュートは、「完全にイチロー用」だったが、園川の投球の幅を広げ、投手寿命を延ばすのにも役立った。

　 園川の名誉のためにつけ加えれば、翌年のイチローとの対戦は12打数3安打で打率.250。7割以上打たれた前の年に比べて大きく改善している。

「ああいう打者がいると、対戦する投手のレベルも上がる気がするんですよ」

 定詰はそんな見方を披露してくれた。

「オレは打たれたけど勝負したんだ」

「打たれたくないから逃げるという手だってある。そういう怖さの中で勝負して、痛い目に遭いながら投げなければ、投手は成長しないんじゃないですかね」

　園川はいま、千葉ロッテのアカデミーで子どもたちの技術指導をしている。イチローの 話題になると、「200本目を打たれた園川さん」として感想を聞かれることもある。

「そのときはいつも、オレは打たれたけど勝負したんだっていうようにしているよ」

　そういって笑った。おそらく子どもたちも、偉業の一端にかかわった人物を間近で見て、 野球の奥深さと面白さに触れた気になることだろう。

　イチローはさらに安打を積み重ね、最終的には210安打で1994年のシーズンを終えた。210本目の安打は近鉄の高村祐から放ったものである。

「えっ、そうなんですか」

　古久保にそのことを告げると驚いた顔になった。

「全然記憶にないなあ。まあ、新記録とか区切りの数字じゃないということもあるけど、あのころのイチローはヒットを打つのが当たり前だったからね。イチローはヒットは打つもんや。こっちは打点がつかず、長打にならずなら御の字や。いつもそんなことをいっていたなあ」

＜前編から読む＞

#1から読む

「打ち取るイメージが浮かばない…」相手投手もお手上げだった1994年のイチロー20歳とは何者だったのか「イチローに駆け引きは通用しない」