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「オレひとりが打たれたわけじゃない」イチローに“200本目”を打たれた男が明かした史上初シーズン200安打の真相「自分じゃ納得できる球」
posted2023/12/22 17:01
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph by
SANKEI SHIMBUN
阿部珠樹氏のスポーツノンフィクション傑作選『神様は返事を書かない』(文藝春秋)より「イチロー 210安打の戦慄」の項を紹介します。<全2回の後編/前編へ>
200安打まで残り3本
100安打を最速で通過し、どんどんヒットを積み重ね、9月にはシーズン200本という数字が現実味を帯びてきた。
残り3本となって迎えたのが神戸でのロッテ戦だった。
チームメイトだった田口壮によると、大記録を前にしてもイチローもチームも特別な雰囲気にはなっていなかったという。
「記録の重圧で足踏みなんて、彼の場合はありえない。普通に、あっさり通過してしまうだろうって思っていましたよ。もちろん、記録達成に立ち会えるかもしれない観客のかたは試合前から盛り上がっていたようですが」
ロッテのバッテリーは園川−定詰だった。マスクを被る定詰は、第1打席、第2打席と違う攻め方をした。しかし、ことごとくヒットにされる。あと1安打されると200安打。一里塚に名前を刻まれるのは決して名誉ではない。だが、攻め方を変えても打たれては方策は見つからない。
「あのころ、イチローが空振りしたいけどバットに当たってしまうんですというコメントをしていたのを覚えています。ぼくなんか、バットに当てるのに苦労したのに。若いカウントでバットに当たってしまうと凡打の確率も高くなる。それなら空振りして、次のボールを打ったほうがいい。それなのに体が反応してバットに当たってしまうということなんでしょう」
イチローの3打席目は「異様は雰囲気でしたね」
なかなか共感しにくい境地ではある。
残り1本となると、球場は騒がしくなった。
「お客さんが増えたなあ」
園川は3打席目のイチローを迎えるとき、そんなことを感じたという。