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「オレひとりが打たれたわけじゃない」イチローに“200本目”を打たれた男が明かした史上初シーズン200安打の真相「自分じゃ納得できる球」
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2023/12/22 17:01
振り子打法という独特のスタイルでプロ野球史上初のシーズン200安打を達成した1994年のイチロー。最終的に210安打を放った
「最初のうちはそんなに入りはよくなかった。でも、1本打たれ、2本打たれて、テレビか何かで知ったんでしょう。3打席目はすごく増えて、異様な雰囲気でしたね」
もう1本も打たれるかもしれない。ただ、園川はイチローの記録自体はさほど気にならなかった。
「リードしていたからね。イチローにヒットを打たれてもリードは守らなくちゃという気持ちのほうが強かった」
バッテリーが勝負に選んだ球種はフォークボールだった。園川は「思ったとおりのボールだった」というが、定詰の記憶は違う。
「ぼくはボールになってもいいというところにフォークを投げてもらうつもりだった。でも、ぼくの構えたところが少し甘かった」
イチローはそのフォークボールをきれいにすくい上げ、ライト線へ運んだ。日本の球場ではじめて記された200安打は二塁打だった。200の数字が刻まれたボードを手に、レイをかけられ軽くはにかむイチローの写真は、長嶋茂雄の空振りや王貞治の756号と同じように国民的記憶の中にある。定詰はふり返る。
「園川さんは左投手なので左打者のほうが打ちにくいように思えます。でも、あのころはまだ左打者の内角を攻める球種がなかったので、左打者にはストライクゾーンの左半分で勝負しなくちゃならなかった。イチローに分が悪かったのはそういう理由もあるんです」
打たれた園川は「時の人」になり、ワイドショーの取材が押しかけたりした。
「オレひとりが200本打たれたわけじゃない」というコメントは、熊本出身のもっこすらしい痛快さでファンを喜ばせた。
「打たれるのは仕方ないけど…」
もちろんフォークボールを要求して打たれた定詰が、構えの位置の半端さを忘れられずにいるように、園川にだってくやしさがなかったわけではない。