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「打ち取るイメージが浮かばない…」相手投手もお手上げだった1994年のイチロー20歳とは何者だったのか「イチローに駆け引きは通用しない」
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byTakao Yamada
posted2023/12/22 17:00
1994年に当時のプロ野球記録となるシーズン210安打を放ったイチロー。200安打を超えたのも史上初だった
「ゴロを打たれるとセーフになる確率がものすごく高くなる。だからできれば飛球で打ち取りたい。でも、それがむずかしいんだよね」
普通、飛球をねらうなら、高めの速い球を使う。
「でも、彼はミートがうまいんで、速い球はきっちりとらえられてしまう。いろいろ試して、真ん中あたりに緩いカーブを投げてみることにした。ほかの選手ならホームランボールみたいな球だけど、甘すぎて彼の場合はいい当たりのフライになる」
その手で何度か打ち取ったことがあった。
「でも、その手もせいぜい1カ月ぐらいしか持たなかった。だんだん対応されるようになったので、しかたがないから力勝負に出る。するとカチンと打ち返される」
イチローといえども万能ではなく、全てのコースを同じように打ち返すわけではない。
「出てきたころの彼は、走りながら打つような感じだったので外の変化球を拾われてヒットされるよりも、近めに投げて強振させ凡打をねらうこともやってみた」
それはしかし大きな傷を負いかねない攻めだった。
「ぼくは彼が藤井寺球場の場外に練習で何本も飛ばしているのを見ていたから、近めは怖かったよ」
イチローに駆け引きは通用しない
ほかの打者なら打ち取るための一定のパターンがある。スライダーが苦手の打者ならそれを決め球にする。何度かその攻めをやって、相手が的を絞ってきたら逆をつく。そうした駆け引きを行なうのが普通だ。ところがイチローには駆け引きは通用しない。基本的に苦手はないし、ねらいを絞って待って打つような打者でもない。
「本能のままに打っているような感じだからね。打たれたからつぎは裏の配球なんてことをやっても意味がない。打たれても同じ攻めをつづけるしかなかった」
<後編に続く>