炎の一筆入魂BACK NUMBER
捕手専念で来季年俸1億円突破のカープ坂倉将吾を、捕手一番手に導いた「光のような存在」とは
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/12/18 11:02
12月6日の交渉で1億2500万円で契約更改した坂倉。カープの捕手としては最年少での1億円突破となった
「あの試合はアツ(會澤)さんに投影していたというより、ちょっと引いた目線で見ていたんです。アツさんからは『ここで1点あげてもいいや』という空気が感じられなかった。状況によって、『バントやらせて1つアウト取ろう』というのもあるし、『三塁に走者がいれば外野フライで1点はOK』とかもある。そういう空気が一切なかった。相手に流れを渡さず、こっちの流れに行きたいというのがあったと思う」
降雨という天候に加え、チームの流れを変えるため明確な意図が伝わってきた。それはグラウンドで唯一他の選手と向かい合う、扇の要として求められる立ち居振る舞い。チームにとって、だけでなく、今年初めて出番なく終わった坂倉にとっても、分岐点となる一戦となった。
捕手にとっては悔しさもあったに違いない。ただ、広島捕手陣には、チームの勝利が最優先という、共通認識がある。
「みんながポジションを争うライバルだけど、チームが勝つことを一番に考えよう」
昨年オフの捕手会で最年長の會澤が捕手陣を前に伝えた思いだった。このときすでに新井新監督から坂倉の1番手構想を伝えられていた。世代交代に抗う気概を持ちながらも、現役時代ともにプレーした新井監督が体現していた“チームプレー”の精神を宿す。重い言葉は、後輩たちの胸に真っすぐ届いた。
頼れる先輩の存在感
3連覇を知り、長く広島を支えてきた先輩の姿は、坂倉にとって「光のような存在」という。
「あの存在感。捕手としてもそうですし、人としてもそう。ああいう人がチームにいると、ありがたい。独特なので、あれを出せと言われても、僕には出せるものではない。なりたいと思ってなれるものではないけど、自分もどこかでそう思われるようになりたいなと思う」
會澤も坂倉と同じように打者としては順調でも、捕手として苦しみながら、自分の色をつくってきた。會澤は直近10年では最少の54試合で、スタメンマスクは39試合。坂倉が奪い取った主戦の座を最後まで譲らなかった。