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「バレー人生で一番の挫折でした」男子バレークラブ史上初“世界3位”の舞台ウラ…代表落選・司令塔の再起「もう一度日本代表に戻りたい」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySUNTORY SUNBIRDS
posted2023/12/13 17:20
世界クラブ男子選手権で日本勢初となる銅メダルを獲得したサントリーサンバーズ。セッター大宅真樹(28歳)はさまざまな思いを胸に、この大会に臨んでいた
大宅自身が「ゾーンに入っていた」と振り返るほど、予選ラウンド2試合と準決勝のトスは冴え渡っていた。
予選ラウンド初戦の相手は、3位決定戦と同じハルクバンク。東京五輪金メダリストのフランス代表イアルバン・ヌガペトや、オランダ代表オポジットのニミル・アブデルアジズなど各国の代表選手を擁する相手に、バランスのいい配球で的を絞らせず、スパイカー全員が高い決定率を残して3-0で勝利。第2戦は、ブラジル代表選手を抱える南米王者サダ クルゼイロ バレー(ブラジル)を相手に、大砲・ムセルスキーを軸にしながらも、好調のアラインなど他のスパイカー陣も巧みに活かした。フルセットの末敗れたが、クルゼイロがハルクバンクに敗れたため、サントリーが1位で予選を突破した。
「視野が広かったですね。相手ブロックがコミットで来ているのが見えたし、精度の面でも、準決勝までの3試合は自分でもビックリするぐらい思い通りに上がった。夢の中にいるような感覚でした。自分もこういう精度の高いバレーを展開できるんだと、かなり自信になりました。がゆえに、準決勝のあそこの1本(のドリブル)が、自分を追い詰めてしまった。
1本で結果が左右される世界だと改めて感じたし、だから3位決定戦では、いいパスが返ってくるたびに、(決まるかどうかは)『自分の責任だ』と思ってしまって、これまで感じたことのない重圧におされてしまっていました」
初メダルを懸けた3位決定戦は最悪のスタート
その3位決定戦の第1セット、いつもと違ったのは大宅だけではなく、周囲の選手も前夜の疲労とショックを引きずり、ミスが続出した。
10-16の場面で、大宅の「代えてください」という嘆願を受け、山村監督はセカンドセッターの西田寛基を呼んだ。大宅は西田をハグして「ごめん」と一言伝えて送り出した。
西田は主にリリーフサーバーとして起用されており、セッターとしての出場は今季初。「『ここで、今シーズン初か』とビックリはしました」と西田は苦笑する。
「でも、コート内がああいう雰囲気だったので割り切って、いい影響を与えられるように、とりあえず声出して、仲間の目を見て、ポジティブなエネルギーをコート内で発揮しようと思って入りました」
体を投げ出して必死にボールをつなぎ、得点が決まれば声を出して走り回り、コート内の雰囲気は明らかに変わった。その姿を見て大宅が何も感じないはずがない。
「西田が本当に100点の仕事をしてくれたので、外から見ていて勇気づけられました。そこから切り替えたというか、考えすぎず、スパイカーを信じて上げることに徹しました」
大宅がコートに戻った第2セットも取られたが、粘り強い守備からチャンスを作ってブレイクする、サントリーらしい形が出始めた。2セットを連取され追い詰められたが、選手の中では「またフルセットだよ(笑)」という冗談も飛び交い、いつもの雰囲気に戻っていた。そこから3セットを連取し、逆転で銅メダルをつかんだ。
第5セットの最後、ムセルスキーのバックアタックで15点目を奪うと、大宅は両拳を握りしめ、喜びを噛み締めた。
「ホッとしました」と安堵感を漂わせ、秘めていた思いを明かした。