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「まさか…」目を疑ったエジプト戦のセッター変更…高橋健太郎、山本智大らが明かすバレーボール日本代表“誤算の敗北” いったい何が起きていたのか?
posted2023/12/08 17:02
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
AP/AFLO
発売中のNumber1086号掲載の[歓喜までの全内幕]バレーボール男子代表「エジプト戦“敗北の誤算”から始まった」より内容を一部抜粋してお届けします。【記事全文はNumberPREMIERにてお読みいただけます】
“まさか”のセッター変更
あれ、ちょっと待てよ。
日本代表コーチ、伊藤健士は目を疑った。
2023年10月1日。男子バレー五輪予選、大会2日目。日本対エジプト。間もなく始まる試合に向け、コートで準備する選手たちも視野に入れながら、伊藤は副審用のタブレットに出るスターティングメンバーと、ローテーションをチェックしていた。
すでに準備は念入りだ。万が一、予期せぬ事態が生じないか。いわば最終確認とも言うべき時、その“まさか”に気づいた。
エジプトのセッターが、違う。
レギュラーセッターは12番。だがタブレット上には3番とある。前日の開幕戦はもちろん、アフリカ選手権や、事前の日本との練習試合でもほぼ出てこなかった選手だ。事前の傾向を分析する中で、五輪予選日本ラウンドで対戦する7カ国中、エジプトは最もスターティングメンバーを変えてこない。特にセッターを代えることはほぼないチームだと明確に示されていたはずだった。
もちろん全選手のデータを分析しているが、スタートでの出場を予測し、念入りな対策を練った正セッターはベンチにいて、出る気配がない。眼前でコートに立つのはセカンドセッター。事前のミーティングで選手に共有したシートに書いた特徴はわずか1行。
「『Aパスの時はAクイックが多い。パスがネットから離れるとクイックが少ない』。これだけでした。エジプトとは事前に練習試合をして、その時も20名近い選手がいたのでもちろんすべて分析、対策はしています。とはいえ正直に言えば、彼に関して試合でのデータはほぼない状況でした」
「絶対にストレートで勝たなきゃいけない」プレッシャー
事前のデータがない分は、リアルタイムでコート外のアナリストから伝えられる情報をもとに、ベンチのスタッフが試合の傾向やクセと合わせ、策を打ち出すしかない。わずか1行ではあったが、ある意味データ通りであったことにも救われた、と伊藤は言う。
「パスが割れれば速攻は使わず、レフトからのオープン攻撃を多用する。ブロックも余裕で間に合うし、最初の2セットは日本が難なく先取した。行ける、と少し安堵しました」
通常ならば完全に、日本がストレート勝ちを収めるパターンで決まり。疑う余地はない。だが、この大会は違った。ミドルブロッカーの高橋健太郎はベンチで異変を感じていた。