JリーグPRESSBACK NUMBER
大迫勇也はヴィッセル神戸に何をもたらしたのか? 優勝決定試合でカメラマンが見た“半端ないエースの猛ゲキ”「弱気の虫を叩き潰すかのように…」
posted2023/11/28 17:01
text by
原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
武藤嘉紀は涙ぐみ、ベンチでは初瀬亮が祈っていた。4分と表示されたアディショナルタイムは、もういつ終わってもおかしくなかった。大迫勇也は何度も両手を広げ、もう「その時」が来ているはずだ、とレフェリーにアピールしていた。
歓声で笛は聞こえなかったが、カメラのレンズ越しに大迫がそれまでとは違う手の広げ方をしたのを目にして、試合が終わったことがわかった。
大迫勇也がヴィッセル神戸にもたらしたもの
2-1。
前日に2位の横浜F・マリノスがアルビレックス新潟と引き分けたことで、名古屋グランパスに勝利すれば優勝を決めることができる状況になった首位・ヴィッセル神戸は、満員のノエビアスタジアム神戸で歓喜の時を迎えた。
今季ここまで22ゴールを決めてきた背番号10の“半端ないエース”は、この日も2アシストでチームを勝利に導いた。その後のフラッシュインタビューで「このために日本に戻ってきた」とコメントを残すことになる大迫は、タイムアップの瞬間には感情を露わにしていたものの、泣き顔の武藤と抱き合って一回転すると安堵の表情に変わった。だが、むしろその穏やかな顔つきが、どれだけの重責を自らに課してきたのかを雄弁に物語っていた。
神戸に加入してからというもの、大迫はゴールという結果やプレーのクオリティだけでなく、そのメンタルの強靭さをたびたび見せつけてきた。
昨年の残留争いの佳境に行われたガンバ大阪戦や、今年9月のマリノスとの天王山でPKを決めた場面のような、自分にどんな重圧を向けても(あるいは周りから向けられても)決してブレることのない強さだけではない。チームが揺れてしまいそうなときに支える強さ、言うなれば「自分と同じ方向に矢印を向かせる強さ」を示してきたのだ。
優勝を決めたこの試合でも、そんな場面があった。
神戸が2点をリードした前半26分、佐々木大樹が稲垣祥に倒されてFKを獲得。この際、佐々木は腹部を痛めたようだった。痛む箇所に手を当てながら立ち上がってポジションにつこうとする佐々木に大迫が声をかけた。大丈夫なのかを確認し、ほどなくプレーが再開された。