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大迫勇也はヴィッセル神戸に何をもたらしたのか? 優勝決定試合でカメラマンが見た“半端ないエースの猛ゲキ”「弱気の虫を叩き潰すかのように…」
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2023/11/28 17:01
11月25日、J1初優勝を果たしたヴィッセル神戸。1点差に迫られた直後、大迫勇也は自身の胸を強く叩いて佐々木大樹に檄を飛ばした
直後の29分、佐々木はビッグチャンスを迎えた。中谷進之介のタッチが流れたところに反応してボールをものにすると、ペナルティエリアに抜け出し、GKランゲラックと1対1。しかし、シュートは枠をとらえることが出来なかった。痛みが精度を狂わせたのか、それともプレーが切れたタイミングで痛みが襲ってきたのかはわからないが、彼は再び腹部に手を当ててうずくまった。
1点差に迫られた直後、弱気の虫を叩き潰すかのように…
佐々木はフィジカルと運動量を武器に戦う今の神戸のプレースタイルを体現する選手だ。だが、このまま強度の高いプレーを続けられるのか心配になるほど、顔は苦痛に歪んでいた。
立ち上がってもかなり痛そうな表情の背番号22を見て、大迫はすぐに合図を送った。ベンチにではなく、佐々木に対してだ。
大迫の表情は落ち着いていた。隙を逃さずにボールを奪いシュートを放ったことについては拍手で継続を促し、続けて自身の胸に軽く手を当て、アカデミー出身の24歳に冷静さを保たせようとした。
わずか1分後、神戸はキャスパー・ユンカーにネットを揺らされ、1点差に迫られる。この日のスタジアムは、試合前から初優勝への期待による高揚感に満ちていた。開始12分で神戸が幸先よく先制し、さらに14分に追加点をあげると、サポーターの興奮は最高潮に達した。しかしユンカーのゴールによって、趨勢は一気にわからなくなった。
VARによるゴールチェックを待つ間、神戸の選手たちはあちらこちらでコミュニケーションをとっていた。大迫は扇原貴宏と笑顔も交えて話し合うと、次に佐々木を見た。
決定機を逸した直後にチームが失点し、痛みも依然として残っている――そんな佐々木に、今度は静かな表情でも笑顔を交えてでもなく、激しい表情で檄を飛ばした。そして大迫は、自らのユニフォームのエンブレムのあたりを強く叩いた。まるで、弱気の虫やネガティブな気配を叩き潰すかのように。