猛牛のささやきBACK NUMBER
「もう全部がかわいかった」オリックス・若月健矢が語る“最強エース”山本由伸「捕手が僕じゃなかったらもっと…」女房役の苦悩と新たな夢「最後1年くらいは一緒に」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/11/11 11:03
第6戦で完投勝利し「若月さんのおかげですね」と女房役の肩を叩いた山本由伸(左)
しかしチームメイトが、この試合を山本のラスト登板にはさせなかった。第2、3戦に勝利。第4、5戦は落とし、2勝3敗で再び山本が先発する第6戦を迎えた。
同じ轍は踏まない。まずは試合前、若月は山本に言った。
「カーブに関しては、そんなに速くなくてもいいから、しっかりカウントだけは取っていこう」
そのカーブが初回からストンと、ストライクゾーンに決まった。最後までカーブを効果的に使い、特に6回は5番・シェルドン・ノイジー、6番・佐藤輝明、7番・糸原健斗の3人をいずれもカーブで打ち取った。
加えてこの日はカットボールや、普段あまり使わないスライダーも織り交ぜた。
「前回の反省というか、前回は僕がカーブを減らしてしまったので、今日はどんどん使いましたし、今日に関してはスライダーも投げました。あれはたぶん(相手の)頭にもなかったと思います」と若月。
「これは行ける」138球完投への“確信”
2回表にノイジーに本塁打を打たれたものの、続くピンチをしのぐと、その裏、チャンスで若月がライト前にタイムリーを放ちすぐさま同点とする。さらに、中川圭太の犠牲フライで2-1と逆転した。
山本は尻上がりに調子を上げ、特に5回からはストレートのスピードや制球、フォークのキレも増し、いつもの山本が戻った。
「すごくいい感覚を取り戻せましたし、これは行けると思ったんで、どんどん投げ込むことができました」
日本シリーズ記録となる14個の三振を奪い、完投勝利。138球目で最後の打者、近本光司をセカンドゴロに打ち取ると、バッテリーは万感の思いで抱き合った。
お立ち台には、山本と若月、2点本塁打の紅林弘太郎が呼ばれた。新記録の14奪三振について聞かれた山本が、「もう本当に若月さんのおかげですね」と笑って、隣にいる相棒の肩に手を置くと、若月はデレデレの笑顔だった。
「ヒーローインタビューで初めて由伸と一緒になったんで、すごく嬉しかったんですよ。たぶん最初で最後だから、(お立ち台に)上げてくれたんでしょうけどね。同点タイムリーだったら普通は上がらないと思うけど。それは本当に嬉しかったですね」
第7戦の後、若月はしみじみと振り返った。