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《ドラフト指名漏れ=プロ失格》ではない! スカウト「いま指名されなくてよかったね」の理由は?…ある“指名漏れ選手”からの一本の電話
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/31 17:04
今年のドラフトも高校生の注目株だった広陵高の真鍋慧が「3位縛り」で挑むも指名漏れした。真鍋は大商大に進学予定
スッと胸に落ちる話だった。
そうか「指名漏れ」って、「君はプロではダメだ」じゃないんだ。
「まだ、ちょっと早いよ」って意味なんだ。
いずれ、プロで活躍できる素質はあるけれど、今はプロ入りのタイミングじゃない。ちょっと早いんだ。あと何年か、上のレベルで一生懸命自分を鍛えたら、きっとプロ入りのタイミングはやって来る。
“指名漏れ”は決して失格のらく印じゃない。さらに野球に打ち込める時間と伸びていける「未来」をもらったってことなんだ。
ドラフト当日にかかってきた「1本の電話」
ドラフト会議の日。
今年も、「U-NEXT」という媒体で、ドラフト中継の解説役を仰せつかった。その帰りのタクシーの中で、1本の電話がかかってきた。
見たことのない携帯番号だった。
「もしもし、東北福祉大の北畑です」
北畑玲央投手。
全国有数の強豪大学チームの投手陣を、エース格として支え、奮投してきた快速右腕だ。お互い、野球が嫌いなほうじゃなく、取材の折りに、ずいぶんと長いこと話し込んだことがあった。
強烈なプロ志望。もちろん、プロ志望届も出していた。
「残念ながらドラフトで指名されることがなかったので、そのご報告をしようと思いまして」
話し始めは、一生懸命元気に話していたが、だんだんと弱くなって、
「いろいろ話していただいたのに、申しわけありません」
言葉が涙でにじんでいた。
聞けば、誰でも知っているナショナルフラッグみたいな会社の野球部に就職できるそうだ。
プロ野球じゃないかもしれないけど、社会人の第一線は同じぐらいのレベル。今の実力のままだと、チームの役に立てないよ、明日から今までよりもっと練習するんだよ。こっちも、その程度の「おせっかいアドバイス」がやっとだった。
身長173cm。背は高くないのに、きれいなオーバーハンドですごく角度を感じる球筋。猛烈な腕の振りからの150キロ近い快速球と、高速スライダーにスプリット。負けじ魂のかたまりみたいな野球小僧が、社会人の強豪で2年後の「さらに上」を目指す。
「指名漏れ」は、決して嘆くことじゃない。
今はまだ、ちょっと早いだけなんだ。
そのことを教わって、今よりさらに成長できるためのかけがえのない時間を与えてもらった。
クヨクヨしている暇はない。
さあ、今日から目線を上げて、新しいスタートをきろう。