「とにかく試合に飢えていて、違うポジションなら出られるかも、という安易な気持ちでした。でも監督は『お前にはキャッチャーが一番あっている。今辛いことあっても辛抱してやり続けることに価値がある』と。西谷監督は、心の中まで見えているんじゃないかと思うくらい、選手一人一人をよく見ている。落ち込んでいる選手に対しては気持ちを上げる言葉をかけ、調子に乗っている選手は突き放す。選手への距離感が絶妙なんです。僕は常に森の二番手で悔しい思いは人一倍しましたが、西谷監督はよく声をかけて引き上げてくれたり、ケツを叩いてくれました」

©Hideki Sugiyama

3日間くらい口をきかなかったこともある

　2年秋から新チームになると、部員間の投票で森がキャプテンに、久米さんは副キャプテンに選ばれた。2人の不思議な縁は、ここからぐっと濃さを増していく。背中でチームを引っ張る森。チーム全体を見渡して心を配り、言葉をかける久米さん。2人の共通の思いは、「高校3冠」の最強軍団をさらに強くすることだった。

「グラウンドの中では森が引っ張るけど、それ以外の部分では副キャプテンの僕がチームをまとめていく。2人で意見を言い合って、ぶつかることもよくありました。どっちかがみんなと一緒になって気持ちが下がっていたりはしゃいでいたりしたら、締めるところは締めろよ！　って怒って。3日間くらい口をきかなかったこともあるし、喧嘩してキャッチボールの1球目から思いっきり相手に投げたり（笑）。しょうもないですけどね」

努力を続けていれば必ずチャンスが回ってくるんだ

　3年春のセンバツ大会。「森の控え」だった久米さんに千載一遇のチャンスが回ってきた。3回戦の県立岐阜商業戦の前日練習で、ランナーをしていた森が右ふくらはぎに打球を当てて肉離れ。試合欠場が決まり、久米さんがスタメンマスクを被ることになった。

【次ページ】　3年秋に起きた事件