バレーボールPRESSBACK NUMBER
「西田が元気になるのは、やっぱり嬉しかった」仲間たちも喜ぶ“ガツガツした西田有志”の帰還…マイクを向けられても素直に笑えなかった理由
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2023/10/07 17:35
セルビア戦でチーム最多となる16得点を挙げた西田有志(23歳)
相手のコートエンドにノータッチで叩きつけたサービスエースや、高さの増したバックライトからのスパイク。得点をもぎとるオポジットを象徴するような数々のプレーはもちろんだが、ブロックを抜けたコースのレシーブやフェイントのカバーまで、「この1本は何が何でも上げる」と食らいつく。
高い決定率、効果率だけでなく、大事な試合ではチームの勝利にどんな形でも貢献する。西田のがむしゃらな姿を、フィリップ・ブラン監督も「彼はこの大会のために今まで努力してきた」と手放しで称えた。
ネット際の着地時に相手選手と交錯し、足首をひねった。相手の強打を顔面で受け、脳震盪を起こすのではないかとヒヤヒヤさせた。そんなシーンも、こう切り返す。
「この大会に懸けていて、(五輪出場権が)取れる、取れないじゃなく、僕は単純に勝ちたい。そのために自分の存在意義を示したい。その一心でやっているし、自分がどうなろうと勝てればいい。それぐらい、僕はこの日本代表に懸けているので」
コートですべてを爆発させる理由
得点を獲れば拳を握り、満員の観衆を「一緒に喜ぼう」とばかりに煽る。審判の判定で流れが変わりそうな時もいち早く「切り替えよう」と周囲に声をかける。ラリーを制して得点を決めると、決定打を放ったのが自分ではなくとも誰より叫ぶ。プレーも感情もすべてをコートで爆発させる。
「みんなを盛り上げる。絶対にこのボールは落とさない。そこで点を獲るからみんなが盛り上がる。シンプルなことですけど、これが僕の中では副キャプテンの理想像なんです」
残すは2戦。1敗で並ぶスロベニアと、全勝のアメリカ。個の力も総合力も、これまで以上にステージが上がる難敵であるのは言うまでもないが、一切の不安も迷いもない。
「やれるのにやらないのは嫌。僕はそういう強い気持ちでバレーボールをやってきているし、それを絶対に忘れちゃダメ。人それぞれプレースタイルがあるけれど、自分のやり方はこれ。とにかくやることをやるだけです」
すべての壁を打ち破り、求める勝利を手にした時、西田はどんな姿を見せるだろう。叫ぶだろうか。喜びを噛みしめ泣くかもしれない。いや、やはり最後は笑顔がいい。
見る者の心をつかむ。
決戦の時は、もう間もなく――。