ボクシングPRESSBACK NUMBER
「大谷翔平君と尚弥はゆとり世代の成功例」大橋秀行が語る井上尚弥の“本当の強さ”とは? マス・ボクシングで感じた衝撃「ロペスと同じだ…」
posted2023/10/09 18:08
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
リカルド・ロペスは「はるか宇宙圏にいる感じ」
1990年10月25日、後楽園ホール。リングでリカルド・ロペスと向き合った大橋秀行は、すぐにこれまでのボクサーと間合いが違うと感じた。
「距離というか、もう空間が違う。俺は(接近戦の多い)韓国の選手に没頭していた。でもロペスはその距離にいないんです。はるか宇宙圏にいる感じですよ。いつも地球内で闘っていたのに、宇宙圏での闘いになっちゃった」
だが、1ラウンド、大橋は右を当てる。ロペスがぐらついた。効いている。「いける!」。そう思った瞬間、トレーナーが練習を見て真っ青になっていたことが頭をよぎる。
「もしかしたら罠があるかな、と躊躇しちゃったんです。あそこで一気に勝負にいけばよかった。悔やむとしたら、それだけです」
立ち直ったロペスは足を使ってきた。前後だけでなく横への動きが速い。これまで味わったことのない感覚。これには大橋も驚いた。
「ああいうパパッと横の動きをする人って、いなかった。本当に異次元の空間でしたね」
ロペスの突き刺すような左、右ストレートを浴びてキャンバスに崩れ落ちた。4回に1度、5回に2度倒され、KOで王座を失った。
だが、対戦したことに後悔は一切ない。ロペスがスター街道を歩み、奪ったベルトを21度防衛する姿をずっと見ていた。
「嬉しいですよ。だって、あの後10年近く、ずっと『前チャンピオン』のままですもん。ジムの会長をやっているのに、元じゃなくて前チャンピオンですよ。張正九にしても、ロペスにしても、対峙した人間しか味わえない、言葉にできないことがあるんです。それを言葉にできるのは大きな財産ですね」