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「大谷翔平君と尚弥はゆとり世代の成功例」大橋秀行が語る井上尚弥の“本当の強さ”とは? マス・ボクシングで感じた衝撃「ロペスと同じだ…」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/10/09 18:08
2023年7月、2団体王者スティーブン・フルトンを破り4階級制覇を成し遂げた井上尚弥。大橋秀行会長が語る“モンスター”の本当の強さとは
WBC総会や世界戦でジャッジやレフェリーと接したとき、「元世界王者の大橋秀行です」と名乗っても、わからない人もいる。だが、「あのリカルド・ロペスにベルトを奪われた」と言えば、誰もが反応する。
「みんな『おお、フィニート!』ってね。やっぱり誰と闘ったかというのは大事ですよ。ロペスの知名度は今でも抜群だし、張正九も有名ですから」
2度目の世界王座獲得も、28歳で引退
大橋はロペスとの再戦を切望し、現役を続けた。1992年10月14日、対抗王者の崔煕墉(チェ・ヒヨン)を3-0の判定で破り、WBA世界ミニマム級のベルトを獲得した。
「もうね、俺のちょっと後に辰吉とか鬼塚が出てきて、彼らが凄かったんだよね。だから2度目の世界チャンピオンになったときには、1回目ほどのインパクトがなくて、『あれっ?』って思ったのを覚えていますよ」
その後、タイのチャナ・ポーパオインに判定で敗れ、王座から陥落。2階級上げてフライ級での再起を考えたが、目の調子が思わしくない。試合から1年後の1994年2月7日、現役引退と大橋ジム設立を表明した。戦績は24戦19勝(12KO)5敗。28歳のときだった。
濃密なボクシング人生を歩んだ「150年に1人の天才」は、世界王者の肩書きや防衛回数よりも、強者と拳を交えることを優先した。張正九との激闘、歴史に刻んだ崔漸煥からの王座奪取、高度な技術戦となったロペスとの邂逅。確かにステンドグラスのような、さまざまな色が混じった、大橋にしか放つことのできない独自の輝きだった。その輝きは観る者を惹きつけ、忘れがたい記憶を刻んだ。
規格外のモンスター・井上尚弥との出会い
ジムの会長になっても、大橋の系譜を継ぐ者がいる。井岡一翔やローマン・ゴンサレスと拳を交えた八重樫東もその1人だ。世界王者になっても強者に挑んでいった。
「八重樫もそう。背中を見ていたから、誰とでも闘う。ローマン・ゴンサレスとやるときも、『闘った方がいい。闘うだけでも将来的に違うから』となったんです」
そして井上尚弥は、大橋ジムに入る条件として「強いヤツとやらせてください」と言った。
「俺たちは『誰とでも闘う』というだけだったんですよ。勝ち負けはさておきね。なのに、誰とでも闘った上で倒して勝っちゃう、進化形のモンスターが現れたんだな」
大橋はそう言って笑った。