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甲子園の風BACK NUMBER
「万波は終わった」と批判も…横浜高恩師が語る、万波中正が“伸び悩む怪物”だった頃「毎朝、電子レンジの前に立って…」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/23 06:00
今年、打っては19本塁打、守っては強肩からレーザービームを放つなど躍動するプロ5年目の万波。高校時代には知られざる苦闘があった
「とんでもないものを引き受けてしまったな、と思った覚えがあります。将来は必ず、野球界の宝になっていくような選手、言ってみれば神様の作品です。高校3年間、厳密に言えば2年半の間に成果を上げようとしてはいけない。彼の将来性、伸び代を奪うような下手なことは絶対にできない、と考えていました」
驚いた、体の柔らかさ
万波の公式戦デビューは、入学式から数日後の4月10日、春季神奈川大会2回戦の霧が丘戦。7回2死一、三塁の場面で代打に立ち、豪快な空振り三振で球場を沸かせた。関東大会では早くもクリーンナップを担い、練習試合では2本塁打。夏の神奈川大会では、松陽との3回戦で横浜スタジアムのバックスクリーン看板を直撃する衝撃135m弾を放つなど8打数4安打で甲子園出場に貢献し、「怪物」として注目を一身に集めた。
1年生にして既に150kmを超えていたスイングスピードとパワーはもちろん、平田監督が可能性を感じたのはその体の「柔らかさ」だったという。
「肩甲骨周りの動きなど、体の色々なところの可動域が広くて柔らかかったのに驚きました。バッティングは、パワーに柔軟性が加味されて初めて力を無駄なく発揮できる。私は筒香の担任をしていましたが、彼もやはり体は柔らかかったです。ただ、二人を比べた時、高校1年時点での完成度という点では筒香の方が圧倒的に上でしたね。万波は素材という意味では圧倒的にいいけれど、正直、時間がかかると思っていました」
使い続けよう、と心に決めていた
これほどの逸材にも関わらず「時間がかかる」と感じた理由は、他を圧倒するその体格にあった。背が高く、手足が長い。恵まれた体躯を自在に操るためには、パワーと技術が必要だ。
「長い手足に対して、それを支える体幹が弱い。つまり、長い枝葉に対して幹が細くアンバランスだったわけです。バットを持つと、自分の感覚よりも余計に枝葉が垂れさがってしまう状態だから、打ち損じることも多い。ただ、だからと言って目先の結果を求めてバットを短く持てとか、振りをコンパクトに、と型にはめてしまえばこれだけの素材が小さくまとまってしまいます。捉える力と遠心力を両方発揮できるように、まずは体作りに時間をかけていくべきだと。そのうえで、中正に関してはダメでもダメでも試合に使い続けよう、そう心に決めていました」