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甲子園の風BACK NUMBER
記者の予想は初戦敗退、結果は優勝…佐賀北の「がばい旋風」はなぜ結実したのか? 広陵・小林誠司が悔いる1球「自分のスキというか…」
text by
安藤嘉浩Yoshihiro Ando
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/08/20 17:15
下馬評を覆し、2007年の甲子園を制した佐賀北。「がばい旋風」と呼ばれた公立校の快進撃のクライマックスは、決勝での逆転満塁弾だった
野村祐輔に対しては「対策も何もない。穴がない」
このあたりから、世間では佐賀北の快進撃を「がばい旋風」と呼ぶようになっていた。
少年時代を佐賀で過ごしたタレントの島田洋七さんの自伝『佐賀のがばいばあちゃん』(徳間書店)が前年に映画化されたこともあって、そう名づけられたようだ。
やはり前年夏に優勝投手となった早稲田実の斎藤佑樹も、3回戦あたりから青いハンカチで汗をぬぐう姿が話題となり、やがて「ハンカチ王子」と呼ばれるようになっていった。いつもながら、絶妙なニックネームをつける人がいるものだと感心してしまう。
佐賀北は準決勝で長崎日大を3-0で下し、決勝進出を決めた。
一方、広陵は優勝候補の一角と大会前から注目されていたが、1回戦がいきなり大一番となった。
3年連続して決勝に進出中で、前年は準優勝だった駒大苫小牧と対戦したのだ。
エースの野村祐輔が5回までに3点を失う苦しい展開となったが、1点を追う9回に山下高久雅の左前適時打で追いつく。さらに7番林竜希の内野安打が相手のミスを誘い、2点を勝ち越した。その裏、野村が相手の反撃を1失点にしのぎ、5-4で振り切った。
その後は東福岡、聖光学院(福島)、今治西(愛媛)に快勝。準決勝は春夏連覇を狙う常葉菊川(静岡)を4-3で下した。3番土生翔平の本塁打などで先手をとって逃げ切る理想的な試合展開だった。
エースの野村は準々決勝と準決勝で、それぞれ12三振を奪っている。得意のスライダーが試合ごとに威力を増していた。
佐賀北の主将で捕手の市丸大介は決勝前夜、広陵の試合のビデオを見て困ってしまったそうだ。「対策も何もない。穴がない」と同僚の取材に打ち明けている。
ただ、野村は準決勝で8、9回に計3失点した。ここまで5試合で38イニング、570球を投げている。決勝も終盤のスタミナに少しだけ不安があった。
作戦があるとすれば、球数を投げさせて後半勝負――。佐賀北はそう考えた。
7回時点で紙面の想定は「佐賀北も堂々の準優勝」
8月22日午後1時1分、決勝のプレーボールがかかった。1回裏、佐賀北は井手和馬、副島の2、3番が四球を選び、2死二、三塁と最初の好機をつくった。
得点することはできなかったが、1回だけで野村に26球を投げさせた。
しかし、2回に広陵が2点を先行して主導権を握ると、様相は一変する。佐賀北はスイスイ投げる野村に対し、攻略の糸口さえつかめない。3回に2死から2番井手が左前安打を打った以外は、走者を出すことすらできない。7回まで、わずか1安打。6回に3者三振を喫するなど、10三振を奪われていた。