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花巻東の仲間が「麟太郎まで回せ！」“最終打席は8回裏”のはずが猛反撃→“泥だらけヘッスラ”佐々木麟太郎のスター性「まだまだ自分は…ただ」

posted2023/08/20 17:03

text by

間淳Jun Aida

photograph by

Hideki Sugiyama

　打席が回ってくるまでには、少なくとも6人の出塁が必要になる。それでも、花巻東の佐々木麟太郎選手はヘルメットをかぶり、バットを握って、ベンチから仲間に声援を送っていた。

　0-9と仙台育英に大量リードを許して迎えた8回。2死一、二塁で、佐々木は打席に立った。初球は外角高めの直球を空振りし、2球目はスライダーを見逃して2球で追い込まれた。3球目は外角の直球に手が出ず、見逃し三振に倒れた。これが、佐々木の高校最後の打席になると大半の人が思っていた。

　ところが、花巻東ナインは違った。9回、ベンチで選手たちの声が飛ぶ。

「麟太郎まで回せ！」

　佐々木に打席を回せば、奇跡が起きるかもしれない。先頭の4番・北條慎治選手が四球で出塁すると、主将の千葉柚樹選手が安打で続く。一、二塁から、6番・広内駿汰選手がレフト前に運んで1点を返した。

　さらに、花巻東は大量リードで主力をベンチに下げた仙台育英に襲い掛かる。連打に相手のエラーも重なって、打者8人の攻撃で4得点。ついに、佐々木に打順を回した。

　ライトスタンドに打球を放り込むイメージを描き、ネクストバッターズサークルで豪快な素振りをしてから、ゆっくりと打席に向かう。逆転を信じるベンチの仲間に向かって「ありがとう」と頭を下げた。

「みんなが自分まで回せと言ってくれて、本当に打席を回してくれて幸せでした。みんなに支えられた高校野球人生。結果よりも、全力でスイングすることが恩返しになると思って打席に入りました」

　2死一、二塁。三塁側アルプスの応援が観客も巻き込んでいく。長打が出れば、奇跡を期待する雰囲気は一気に高まる。観客の視線が佐々木に注がれた。初球は、ほぼ真ん中の直球を見逃し、2球目は外角直球をファウル。わずか2球で後がなくなった。

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