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「甲子園で優勝したかった」21歳山下舜平大に必要だった“3年前の絶望”…覚醒前夜の食事改革と長友トレ秘話「制服ズボン3、4枚ダメにした」
text by
前田泰子Yasuko Maeda
photograph by7044/AFLO
posted2023/08/18 17:06
今シーズン目覚ましい活躍を見せるオリックス山下舜平大(21歳)。甲子園が中止となった高3の夏をどう過ごしていたのだろうか
2019年11月、福岡の大牟田高の創立100周年記念として大阪桐蔭との招待試合が行われ、福岡大大濠も参加した。山下は大阪桐蔭との対戦で5イニングを投げ、12奪三振の快投を見せた。これまで取り組んできたカーブが決まり、大阪桐蔭の打者から次々に空振りを取った。
「負ける気はしなかった。カーブがはまって、緩急がうまく使えました」
相手は近畿大会準優勝の全国トップレベルの強豪。気後れすることなく勝負を挑み、緩急を使う投球をつかんだ山下。この一戦が大きな自信をつかむきっかけになった。
食事と長友トレ「制服ズボン3、4枚ダメにした」
順調に成長を進めていた大器は、本当ならひと冬のトレーニングを経て3年生となった春に大きく花開くはずだった。だが世界中を巻き込んだ新型コロナウイルスの感染拡大で学校生活は全てストップ。同年3月から休校となり、当然練習もできなくなった。春からの公式戦はすべて中止された。
そんな未曽有の緊急事態も、山下の成長にとっては良い方向に作用したのかもしれない。コロナ禍での自粛期間中、誰からも指導を受けられない山下は自宅の近所の公園で友だちとキャッチボールをして過ごし、同時に練習が休止となった期間を使って体作りに励んだ。
「自粛期間中は食べて、トレーニングの繰り返しでした」
体を大きくするための効果的な栄養についても勉強し、鶏肉と野菜中心の食事にプロテインも欠かさなかった。
トレーニングも毎日に行った。スクワットや体幹トレーニングに加え、サッカー日本代表として活躍し、海外でもプレーしてきた長友佑都(FC東京)の体幹トレーニングの動画を見て研究。食事とトレーニングを地道に行った結果、2年秋に80キロだった体重は最大95キロにまで増えた。「制服のズボンを3、4枚ダメにしました」と言うほど急激に体が大きくなった。八木監督は「山下に関しては練習休止の期間も心配はしていませんでした。地道にコツコツやれる子なので」と自粛期間中に見違えるような体になった山下を頼もしく見つめていた。
覚醒した大器…“150キロ”をあっさりと実現
3カ月間の自粛期間を経て「大器」となる下地はすべてそろった。練習が再開した6月1日からの山下の覚醒ぶりは目を見張るほどだった。
練習再開から2週間後の6月中旬、前述した西日本短大付との練習試合。山下は「どんな感じだろう」と手探りの投球だったにもかかわらず、自己最速を大きく更新する153キロを出してスカウトたちを驚かせた。高3時点の目標の選手は1学年上の佐々木朗希(ロッテ)や奥川恭伸(ヤクルト)。憧れの人に近づくために「150キロは出したい」という目標を掲げていたが、あっさり達成してしまった。「今までは目標にもできない存在だったけど、少し見えてきました」。確かな手応えをつかんだ瞬間だった。