都道府県の高野連が主催する独自大会が開催された2020年、福岡大会は一時、独自大会の開催が危ぶまれたが、4地区に分かれての大会開催が決定した。

「甲子園を目標にしてきたので、なくなったことは野球人生では忘れられないこと。甲子園で優勝したかったので、目標を切り替えるのは難しい。今はとにかく負けたくない。福岡で勝ちたい」

　最後の夏についてやりきれない心境をこう表現していた山下が、その思いを果たすような快投を見せる。

　大会直前には急な脇腹痛で「故障か？」とスカウトたちの気をもませたが、初戦の春日との試合では最終回に登板し、不安を吹き飛ばすべく直球だけで3人を無安打に抑えた。実は脇腹を痛めた後はしばらく投球を休み、期末試験や天候不順で練習はほとんどできなかったため、試合の3日前に投球練習を始めたばかりのほぼ「ぶっつけ本番」のマウンド。それでも、最速151キロを出して集まった20人のスカウトをうならせた。

　続く東福岡戦は先発で13奪三振、球速も150キロを超えた。「投球もだが､精神面の成長が大きい。エースとしての自覚が出て球が変わってきた。以前なら四球で崩れていたが､カウントが悪くてもそこから打ち取れるようになりました」と八木監督は心身ともに成長した山下を頼もしく見つめていた。

　投げるたびにスカウトの評価はどんどん上がっていった。最速153キロの力のある速球ももちろんだが、それ以上に高い評価を受けたのは落差のあるカーブだ。

「高校生レベルで投げられるカーブじゃない」
「小さい変化球は投げられるようになるが、落差のある緩い変化球は誰でも投げられるわけではない」

　大きな武器になっているカーブはすでに高校時代から山下の大きな魅力だったのだ。

「ペイペイドームでまた投げたい」

福岡地区大会の決勝戦で力投する山下舜平大　©︎7044/AFLO

　福岡地区大会の頂点を目指した山下は決勝まで勝ち進む。決勝戦はペイペイドームで福岡市内の進学校・福岡との対戦となった。山下は9回まで4安打無失点。9回には150キロを計測。しかし、試合は拮抗し、0－0のままタイブレークの延長戦に突入した。

　11回に2点のリードをもらった山下だったが、その裏の1死二、三塁のピンチから三塁線への内野安打と右前適時打を浴びて同点とされると、最後は犠飛を許し逆転サヨナラ負けを喫した。山下は悔しさいっぱいにこう語っていた。

「悔しい。自分の投球で試合を終わらせてしまった。負けたのでだめなピッチングだけど、次につなげていきたい」

　結果は準優勝。しかし、11回までの投球は見事だった。球速は最後まで衰えず、延長に入っても直球は常時140キロ台後半を記録。この日最速の151キロは11回裏にマークしているのだから末恐ろしい。

「ペイペイドームのマウンドは初めてだったけど投げやすかった。次のステージでまた投げることができるようになりたい」

7月17日ソフトバンク戦で7回無失点の好投を見せた山下舜平大。あの決勝以来のペイペイドームのマウンドだった　©︎KYODO

　プロとして活躍する自分を想起していたが山下だが、その目標は3年後、今年7月のペイペイドームでのソフトバンク戦ですでに達成している。

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