炎の一筆入魂BACK NUMBER
《伝統の猛練習》一軍昇格のチャンスが少ないカープのファームで、5時起床の選手が腐らず努力を続けられるわけ
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2023/08/14 06:00
右脇腹痛で離脱中、直射日光降り注ぐ由宇練習場で二軍練習に参加した西川龍馬。一軍復帰翌日の8月9日には本塁打を放った
その後、5月19日に2年ぶりに一軍に昇格。5月23日の中日戦では特大弾を放って持ち味を発揮したものの、守備面での不安を露呈して交流戦明けの6月28日に降格となった。それでもなお、前を向いて再昇格を目指せているのは、新加入のコーチの存在も大きい。由宇には新しい風が吹いている。
福地寿樹二軍打撃・走塁コーチは今年、指導者として28年ぶりに広島に復帰した。鉄拳制裁も珍しくない前時代的な指導を受けてきたが、選手とコミュニケーションを取りながら長所を伸ばす指導を重視する。
「ここにいる選手は、一軍と違って時間がある。この時間を有効に使って真摯に取り組んで欲しいと思っている。一軍では一発勝負の場面で結果が求められる。だからこそ、ここでは冷静に、根気よく自分を見つめ直せるようにしたい」
地力がなければ、一軍では戦えない。今季のチームがあらためて、その現実を突きつけている。「二軍の10試合よりも一軍の1試合の方が経験となる」という言葉を聞いたこともあるが、昨季まで一軍でのチャンスをもらった若手に、春季キャンプで違いを見せた選手はいただろうか。野間峻祥や西川龍馬らレギュラーが離脱した間、存在感を示すことができた若手は? いずれも出場機会をもらっていたにすぎず、奪い取ったのではなかったと言わざるを得ない。
昨季127試合に出場した小園海斗であっても今季は開幕直後に降格となり、再昇格まで74日間、二軍で自分自身と向き合う時間を過ごした。
叩き上げの監督とコーチ
「育成に時間はかかる」
4年連続Bクラスのチームを優勝争いするまでに押し上げた新井監督は、春季キャンプ中からそう言っていた。付け焼き刃ではなく確かな力をつけることを求めるため、多少時間を要することは覚悟していた。自身も広島伝統の猛練習によって鍛え上げられた。
「(一軍に)塩漬けにしても、旨味はでない」
若手の起用法についてそう表現したこともあった。