炎の一筆入魂BACK NUMBER
《伝統の猛練習》一軍昇格のチャンスが少ないカープのファームで、5時起床の選手が腐らず努力を続けられるわけ
posted2023/08/14 06:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
NIKKAN SPORTS
どこまでも広がる青い空の下、若鯉たちが汗を流して戦っている。日差しをさえぎるものはなく、彼らを刺すように燦々と降り注いでいる。広島の隣県、山口県岩国市の由宇駅から車で約15分離れた場所にある広島東洋カープ由宇練習場。鈴木誠也(カブス)、丸佳浩(巨人)、會澤翼、松山竜平らが、ここから巣立っていった。
ナイター試合が続く一軍とは違い、暑い夏でも二軍の朝は早い。5時には起床し、二軍寮のある広島県廿日市市の大野練習場に集まり、大型バスで約1時間かけて移動する。到着後はすぐに12時30分開始の試合に向けた練習がはじまり、先発出場しない野手や登板予定のない投手たちにもキャンプのような練習が待っている。午前中から降り注ぐ日差しは容赦なく、すぐに汗びっしょりになりながら走り、白球を追う。その先にナイター照明に照らされた一軍の舞台が待っていると信じて——。
ただ、現実は厳しい。昨オフの監督交代により、若手は多くのチャンスを得られるという見方もあったが、新井貴浩監督はフラットな目で選手を見極めた。一軍が優勝争いに加わる中で、若手の底上げは十分とは言い切れない。一軍で地力を示す経験者たちが、若手が入り込む隙を与えていないとも言える。
昇格できずとも、ひたむきな選手たち
一軍と二軍の入れ替えが活発でなければ、二軍に鬱屈した空気が漂うことがある。現場に行けば、ぽろぽろと不平や不満を耳にすることは珍しくない。だが今季は、入れ替えが活発ではないにもかかわらず、そういった言葉が漏れ聞こえてこない。
5月上旬、林晃汰は二軍で3割近い打率を残し、いつ昇格してもいいだけの結果を出しながら、一軍から声をかけられずにいた。だが、その表情は昨季までのものとは違った。
「今日はこれをやろう、次はこれをやろうと、明確な課題を持って打席に入っている。昨年はオフになって自分を見つめ直したら、何も残っていなかった。そんなことになってはいけない」