一発でタッチダウンされることだけは避けようと、試合前に再三、注意はしていた。

　それでもそのミスを見逃してくれるほど、日本一のチームは甘くない。エースQB菅原俊から放たれたロングパスは70ヤードのロングタッチダウン。流れは一気に法政大に傾いていった。

「このまま他のチームみたいに飲まれちゃうのかな……」

　第1クオーターの終了間際にも追加点を奪われ、0－16のスコアにされると、常木の頭の中にはそんな負の感情も起きつつあった。

　ただ、ここからようやく1年間かけて仕上げてきた“カミカゼ”隊形が本領を発揮する。

ディフェンスリーダーである常木（14番）を中心にした「カミカゼ」は法政大のオフェンスをシャットアウトしはじめる／取材対象者提供

　そもそも凡ミスがなければパス対策は1年間、万全にやってきたのだ。その想定通り、菅原のミドル＆ロングパスは悉く通らなくなっていく。

「カミカゼが思った以上に機能して、むしろ逆にアワアワしていました。だいたいどのプレーも3段階くらいまで、これで止まらなかったらこれを使う……みたいなサインを用意していたんです。でも、どのプレーも全部1段階目で止まっちゃう感じで」（常木）

　200以上用意したサインプレーは、結局数パターンしか使わずに終わることになる。

王者・法政大は大混乱…拮抗した展開へ

　実はこの時、法政大のQB菅原の頭は大混乱に陥っていた。

　後に本人が語ったところによれば、カミカゼ隊形のイレギュラーな人の配置は、百戦錬磨の天才QBをもってしても全く予期しない光景だったのだという。

「ディフェンスラインが2人しかいない？ これはどういうフォーメーションだ――？」

　そして混乱に拍車がかかればかかるほど、司令塔は自分の自信のあるプレーに戻ってくる。菅原にとってのそれは、ミドルやディープへのパスだった。ただ、そこにこだわればこだわる程、一橋ディフェンスチームの思うつぼだった。結果的に最終クオーターまで法政大はそこから追加点を奪うことができなかった。

第2クオーターにはエースRBの渡辺が法政大相手にタッチダウンを決める／取材対象者提供

　そうして法政大のスコアが凍り付く間に、一橋のオフェンスチームが追い上げを見せる。

　第2クオーターでは渡辺が会心の走りを見せてタッチダウン。ハーフタイムを挟んだ第3クオーターでは加藤がパスをヒットさせて、追加点を上げた。

　この時点でスコアは14－16の2点差。キック一本で逆転できる点差だ。

第3クオーターのスコアボード。キックで3点取れれば一橋大が逆転できる状況に／取材対象者提供

　ただ、追い上げムードのなかではあったが、QBの加藤の頭からは不安が消えなかった。

「オフェンスの戦略としては、法政大ディフェンスの反応速度の速さを逆手にとって、オーバーリアクションを誘おうというものでした」

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