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15年前の「奇跡の一戦」を振り返る――“2年連続日本一”絶対王者・法政大に挑んだ“偏差値70超”の頭脳集団・一橋大アメフト部…勝負の行方は? 

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山崎ダイ

山崎ダイDai Yamazaki

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photograph by取材対象者提供

posted2023/08/26 11:03

15年前の「奇跡の一戦」を振り返る――“2年連続日本一”絶対王者・法政大に挑んだ“偏差値70超”の頭脳集団・一橋大アメフト部…勝負の行方は?<Number Web> photograph by 取材対象者提供

半年以上をかけて準備した秘策をもってついに迎えた絶対王者・法政大戦。その戦いは予想もしない展開へともつれこむことに…

 例えばオフェンスライン全体を右に動かして右サイドのプレーのようにみせ、ボールキャリアは左側へ動かす。すると異常な反応速度を誇る法政ディフェンスは、右に振られる。普通に考えればブロックが薄くなるリスクはあるが、この年の一橋には日本トップクラスのRBである渡辺がいた。刹那でも反応が遅れてくれれば、渡辺の足なら一気に抜け出すことができる。

「それは思っていた以上に決まりました。ただ、そこから法政の選手が戻って来る速さも想定を超えていた。ひっかかってはくれるのに、思ったほどゲインできない。1発タッチダウンが取れてもいいはずのプレーが、20ヤードで止まっちゃう。そういう小さな違和感はずっとあって、大量得点は無理だな……という感じでした」

 そして第3クオーターの終わり、ゲームの命運を決めるプレーが起きる。

 法政大が一橋大のゴール直前まで攻め込んだものの、3度の攻撃でファーストダウンを更新できない。キックで3点を取っても、一橋大にタッチダウンを返されれば逆転されてしまう。通常、アメフトでは4回目の最後の攻撃は陣地回復のためにキックを蹴るが、いまはすでに敵陣の奥深くだ。法政大はタッチダウンを狙ってギャンブルに打って出た。

 結果的に法政大は、このギャンブルに失敗する。タッチダウンパスを狙った菅原は、ボールを投げることができなかった。

守備の検討、相手エースのケガ…流れは一橋のはずが?

 そして、ここで予想外の出来事が重なる。

 そのままタックルを受けた際、菅原が利き手の指を負傷してゲーム続行が不可能になったのだ。ゴール前の相手の攻撃をシャットアウトし、しかも相手の絶対的エースが負傷交代。

 流れは完全に一橋大に傾いていた。

 ディフェンスはこのまま相手を抑えればいい。しかも司令塔の大黒柱が退いており、難易度は格段に下がる。オフェンスも苦戦はするが全く歯が立たないわけではない。時間を使って、最後に1本でもキックかタッチダウンが取れればいい――それが最終クオーター前の一橋大の青写真だった。

 だが、勝負の綾というのは本当に難しい。“カミカゼ”隊形のキーマンでもあったディフェンスラインの千田一臣が振り返る。

「攻撃を止めて、菅原が下がって、イケイケムードのはずのこっちの攻撃がめちゃくちゃあっさり止まってしまったんです。スペシャルなプレーがあったわけじゃない。でも、そこで急に空気が冷え込んだというか……本当に突然、モメンタムが向こうに行ってしまうのが目に見えた。『あれ?なんか流れ悪いな』って」

 試合開始からここまでずっと、「格上の法政相手に一橋が挑む」という戦前の構図通りの戦いが続いていた。ところが、点数こそ負けているとはいえ、ここで初めて主導権が一橋側に動いてきた。いまとなっては真実は分からないが、初めて感じた「勝利」の気配が、逆にオフェンスチームの足を止めてしまったのかもしれない。

【次ページ】 届かなかった「12点の差」が持つ意味とは?

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