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15年前の「奇跡の一戦」を振り返る――“2年連続日本一”絶対王者・法政大に挑んだ“偏差値70超”の頭脳集団・一橋大アメフト部…勝負の行方は?
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by取材対象者提供
posted2023/08/26 11:03
半年以上をかけて準備した秘策をもってついに迎えた絶対王者・法政大戦。その戦いは予想もしない展開へともつれこむことに…
10月21日、調布市のアミノバイタルフィールドは秋晴れの好天に恵まれていた。
チームのディフェンスリーダーだった常木翔は、この2日間、眠ることができていなかった。
「万全に準備はしたはずなんですけど……直前で『このプレーやられたらヤバくない?』とか言ってくるヤツがいて(笑)。『いやいや、それ言われたら前提が崩れちゃうだろ』とか考え始めると、どんどん不安が押し寄せて来て。それをごまかす為にひたすらサインプレーの確認をしていましたね」
対照的に、オフェンスチームの加藤は晴れやかな気持ちで試合に臨んでいた。
「あの法政大と、全勝同士でぶつかれる。こんなにすごいこと、なかなかないですからね。その舞台に立てるということ自体がすごく誇らしかった」
試合前は「100点差で負けたらどうしよう」と不安になる瞬間もあったという。
「でも、試合前のハドルで主将がみんなの顔を見回して、『うん、いい顔してる』って言ってくれて。それでみんな1年間を思い出して試合前なのに号泣しちゃって(笑)。まぁでも、そこで腹が決まりました」
現実的には10回やって1回勝てるかどうかの相手、という認識はチームの中でも共通見解だった。だからこそ、勝てる1回をこの試合にもってくるための1年間だった。
キックオフ直後…一橋チームの司令塔が感じた「異変」
その試合は、キックオフ直後から波乱含みの立ち上がりを迎えることになる。異変を最初に感じたのは、QBの加藤だった。
「実はこの年、一橋は全試合で最初の攻撃の時にトリックプレーを入れているんです。ある種の遊び心もあったし、こういう変化球はだいたい初手は決まる。決まれば相手は『一橋は何をしてくるかわからない』という疑念に囚われる」
相撲で言えば猫だまし。最初の“ビックリプレー”で流れをつかむ。それが一橋の狙いでもあった。
ところが、このプレーがものの見事に失敗する。
それは、法政大が完全にそれを読んでいたからだった。
「正直、戦前までは『あくまで法政大は“超”格上で、ウチのことなんか気にもしていない』と高をくくっていた部分があった。ところが、このプレーがつぶされたことで法政大がウチをちゃんとスカウティングしていることがわかったんです」(加藤)
あの法政が本気で、一分の隙もなく、自分たちに勝ちに来ている。
それは嬉しい反面、恐怖でもあった。「法政だってさすがに一橋相手じゃ油断しているはず」という思い込みは、加藤の中からは吹き飛ぶことになる。
ここからフィールドゴールで3点の先制を許すと、浮足立った一橋はディフェンスでも凡ミスを犯す。
「本当に、めちゃくちゃくだらないサインプレーのミスです。選手が決まった場所にいなかったとか、そういう感じのミスが出た」(常木)