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《藤浪晋太郎電撃トレード》イチローはヤンキース、ダルは期限10分前だったが…“横田慎太郎に捧ぐ”藤浪の好投→PO狙う首位移籍が激レアなワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byVaughn Ridley/Getty Images
posted2023/07/20 17:02
ア西地区最下位のアスレチックスからア東地区首位争いのオリオールズへ。藤浪晋太郎の電撃トレードを見ても、MLBはやはりおもしろい
日本人ファンは、2012年のトレード期限前のマリナーズ、イチローのヤンキースへのトレードを思い出すだろう。7月23日、イチローは2選手とのトレードでヤンキースに電撃移籍した。
「オールスターブレークの間に自分なりに考えて出した結論は、20代前半の選手が多いこのチームの未来に、来年以降僕がいるべきではないのではないか。また、僕自身環境を変えて刺激を求めたい、という強い思いが芽生えた」
との言葉は、38歳という年齢を感じさせる切ないものだった。
昨年、トレード期限前日の8月1日にレッドソックスは正捕手のクリスチャン・バスケスをアストロズに放出したが、この日はちょうどアストロズ戦、打撃練習を済ませたバスケスは、チーム幹部にトレードを通告され、チームメイトに別れを告げて、グラウンドを横切ってアストロズに移籍したのだ。こういう例も珍しくない。
17年のダルビッシュはトレード期限10分前に
2017年のダルビッシュ有は8月1日のトレード期限が終わる10分前にレンジャーズからドジャースに移籍した。下位に低迷するレンジャーズから優勝争いをするドジャースへ。まさに助っ人として移籍した。ダルビッシュはこの年2カ月、ドジャースのユニフォームを着たのちに、翌年にはシカゴ・カブスに移籍している。
日本と違ってアメリカには「雇用の流動性がある」と言われるが、日本人の感覚では「いくらなんでも流動しすぎでしょう」と言いたくなる。しかしプロ野球のみならずアメリカのビジネスは「変革してなんぼ」という部分があり、こうしたドラスティックな移籍劇はおおむね好意的に評価される。
これらの観点で見ると、改めて藤浪のトレードはそれほど珍しくないことがわかる。
プレーオフを狙うオリオールズに捨て試合は1つもない
ただし、藤浪は解体モードのアスレチックスで、本質的には「勝っても負けてもさほど重要ではない」試合で投げてきた。プレッシャーはそれほどなかったはずだ。
一方でオリオールズは――全5チームが勝率5割以上という――MLBナンバーワンの激戦区ア・リーグ東地区で58勝37敗、勝率.611で、レイズをかわして首位に立った。リーグには巨大戦力のブルージェイズ、名門ヤンキース、吉田正尚がいるレッドソックスがそれぞれ小さなゲーム差でひしめいている。今後、捨て試合は1試合もない。