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《藤浪晋太郎電撃トレード》イチローはヤンキース、ダルは期限10分前だったが…“横田慎太郎に捧ぐ”藤浪の好投→PO狙う首位移籍が激レアなワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byVaughn Ridley/Getty Images
posted2023/07/20 17:02
ア西地区最下位のアスレチックスからア東地区首位争いのオリオールズへ。藤浪晋太郎の電撃トレードを見ても、MLBはやはりおもしろい
そもそもアスレチックスは観客動員が1万人を割り込み、30球団の中で図抜けて少なかった。チームはオークランドからラスベガスに本拠地を移転すべく働きかけをしている。今シーズンは早々に優勝争いを諦め「解体モード」だったのだ。
アスレチックスの副社長は「マネーボール」で有名なビリー・ビーン。GM時代に無名でもデータ的に見どころのある選手を起用して勝ち星を積み重ね、プレーオフ進出を果たすなどユニークな采配で名をはせた。同時に、不振の選手はバッサリ切り捨てることでも知られている。2013年、西武から移籍した中島裕之(現宏之、巨人)が、ビーンGMの眼鏡にかなわず2年間マイナー暮らしになったのも記憶に新しい。
藤浪もそうなる可能性があったが、今季のアスレチックスは「ペナントレースどころではない」状況であり、チームの本格的な立て直しをしなかった。それもあって藤浪は不振にもかかわらず、登板の機会を与えられ続けた。藤浪自身の契約も1年契約ながら「本人の同意がない限りマイナー降格できない」内容だったようで、それも功を奏した。
ストライク率を見ると7月は超優秀だった
藤浪は少しずつ自分の投球を取り戻していった。当初は大差がついた試合や敗戦処理が多かったものの、6月以降は勝ちゲームでの起用も多くなる。7月は2勝1ホールドで、もはやセットアッパーと言ってもいい立ち位置だった。
〈月間の四死球数とストライク率(S%)の推移〉
3,4月6登18回16四3死 S%.560(368球206S)
5月11登12回8四1死 S%.565(232球131S)
6月10登11.1回6四0死 S%.621(195球121S)
7月7登8回0四1死 S%.683(101球69S)
7月はまだ死球が1つあるだけで歩かせていない。S%は6割2分あれば合格点、6割5分で優秀とされるが、藤浪は、今月.683と超優秀な成績になっている。
言うなれば、アスレチックスというチームが藤浪の使い方を把握したのだ。
リーグ屈指、大谷翔平に匹敵する速くて威力のある剛速球がある。細かなサインを出すことなく、捕手がど真ん中に構えさえすれば、藤浪は打者を圧倒する球を投げる。その速球が決まり始めたから、スプリッターも効果的に使えるようになった。「時価」の藤浪は優秀な救援投手になり、イニングまたぎでも結果を出すところも強みになっているだろう。
イチロー、ダルも経験した電撃トレードは「MLBの華」
電撃トレードは「MLBの華」と言ってもよい。